隠された翼の傷

<都市アイビス 東側上空>

 地上からかなり離れた高度で飛行する1つの飛行物体。耳鳴りのような飛行音を立てながら、同じ高度で飛行する群れを追跡する。飛行物体に乗る2人の男性の内、前にいる男の口が開いた。

「・・・居るだろうとは思っていた」
「ああ、リッパーもいるなら他の種がいてもおかしくはない」

 ドラグーン隊の隊長イーグルとその部下である特攻隊員のブレードは、スカイチェイサーに乗って異形者の群れを追っていた。彼らが追跡する飛行型の異形者。

<クアトル>

 体長2mもある蛇の身体に、コウモリのような翼を持つ飛行生命体。空中からの強襲を得意とし、口部から粘着性の物質を吐いて得物の動きを止める。捕縛した得物は蛇のように丸呑みはせず、顎で引き裂いて貪るのだ。

 まだ、こちらの存在には気付いておらず、クアトルの群れは東に向かって飛び続ける。ここで2人の乗ったチェイサーが高度を保ちながら、速度を落として留まった。自分たちの左側をクアトルの群れがいる方向へ向ける。

「まずは先制を取る」

 イーグルは背負っていた『C.R』を構える。スコープで相手を確認すると、『C.R』の銃身が左右に開いた。開いた銃身の間に青白い光が収束されていく。エネルギーチャージ中にスコープ越しで、多数の敵が重なる射線ポイントを探る。

「すぅ―ふぅ―」

 イーグルは深呼吸で気持ちを落ち着かせると、十数体が重なる位置を発見した。すでにチャージは完了。無呼吸で狙いを定めた瞬間、引き金を引いてまばゆい光を放った。

バシュウウウウ!!

 放たれた光は銃身よりも太いサイズのレーザーを放出。空を貫く青白い光線は、異形の群れへと一直線に向かう。

「KIIII!?」

 異形たちは不意を突かれ、ある者は欠片も残さず蒸発し、またある者は翼や身体の一部を失って落下しながら溶けていく。生き残った異形たちは振り返って襲撃者を確認した。2人の存在を目視すると、異形たちは彼らに飛び向かう。

「来たぞ、距離を保って引き付けろ」
「・・・了解」

 追いつかれないよう旋回しながら飛行するチェイサー。追いつこうと飛行速度を上げるもなかなか追いつけない異形たち。格好の獲物となった異形の姿をイーグルは見逃さなかった。

「悪いが獲物になるのはお前たちだ」

 彼はスコープで狙い定めて青白い光線を発射する。射線に重なる複数の異形たちが一度で落とされた。続けて二発目を発射して撃ち落とすと、異形たちが散開して2人の両脇へと回り込む。

「ブレード!」
「・・・掴まってろ!」

 ブレードは速度を落とさず、チェイサーを急降下させた。振り落とされないよう、左手と両足に力を入れてしがみつく。包囲を抜けるため、下へと向かう2人。再び距離を離して上昇し、異形たちを狙い撃つ。

「ブレード、後方の右側をカバーしろ」
「・・・了解」

 イーグルの指示を受け、ブレードは左手で腰後ろにある『L.B.H』を抜き取り、右手に持ち替えてから後方へ向けて発砲した。2つの銃撃が次々と異形たちを撃ち落とす。

「下だ!」
「ちっ!」

 イーグルの警告を聞き、ブレードは瞬時にチェイサーを左へ旋回させる。すると、下から1体のクアトルが突き上げるように現れた。間一髪で避け、危険を察知したイーグルが襲撃した異形を仕留める。

「!? 上だ!」
「くっ!」

 今度は右に旋回すると、上空から丸い緑濁液が数個落ちてくる。上空に上がっていた数体の異形が、彼らに向けて粘着弾を吐いたのだ。それすら感知して回避する2人。

「・・・伏兵が多いな」
「だが、所詮は獣じみた行動だ」

 余裕の表情で狙撃するイーグルとチェイサーを操縦するブレード。徐々に異形たちの数が減っていき、2人が優勢になっていく。

「残りは僅かだ。一気に殲滅する」
「・・・呆気ない奴らだ」
「まだ終わっていない。油断はするな」
「・・・ふん、了解」



 一方、この空中戦を繰り広げる場所から遠く離れた地上に、その戦いを見つめる1つの人影あった。

「凄い・・・」

 手渡された携帯双眼鏡を使って、戦いを見ているエンジェルのウィリエルだ。彼女は彼らの戦いが気になり、邪魔にならない場所で彼らを見守っていた。

「これが・・・異世界で起きている戦い・・・」

 異世界の武器と敵との戦いにも驚いていたが、それよりも彼女の目を引くものがあった。

(相手を手玉に取っている・・・動きも無駄がない・・・)

 迅速な行動を含め、敵への攻撃や対処などが素早い。ウィリエルは、その流れるような華麗な戦いをする彼から目が離せなくなる。

(私もまだ駄目ですね・・・彼が羨ましいと思うなんて・・・)

 少し自己嫌悪になるも、正直な気持ちであることに変わりはなかった。エンジェルとしての
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