『レスカティエ教国』
リリムと言われる魔物によって魔界化された元宗教国家。教団が誇る多数の勇者たちが生まれた国でもあったこの場所は、今や欲望を曝け出し、結ばれることを許されなかった者たちが愛し合う憩いの土地となった。
これはその国が魔界化されている最中に起きた小さな出来事である。
大通りで逃げ惑う男性兵士たちとそれを追う魔物の女性たち。必死に抵抗するもことごとく拘束され、その場から連れ出される。連れ去られた場所は恐らく誰にも邪魔されない安全な場所であろう。
そんな中、二人の兵士が魔物から逃れるため、全速力で走っていた。一人は立派な鎧を付けた男性騎士。もう一人は軽装備の一般的な女性兵士。二人は何とか魔物の追跡から逃れて建物の間に隠れる。
「はぁ、はぁ、此処まで来れば・・・追ってこないだろう」
「そうですね・・・ザラムス隊長・・・」
ザラムスと呼ばれた男は騎士団の隊長の一人で、突如現れた魔物の撃退のため、部隊を引き連れて防衛に当たっていた。しかし、一人の女性兵士がいきなり魔物化したことにより、防衛網は壊滅的な打撃を受けることになる。
やむを得ず、彼は撤退の指示を出すも、時すでに遅く、次々と部下たちは魔物の餌食となっていった。その場に居た少数の部下を引き連れて逃げたものの、一人の女性兵士を残してその他は捕まってしまう。
残った女性兵士の名はニリア・ペアリスト。金色の長髪をした女性で左腰にショートソードを携えている。まだ、16歳という若さで彼女は腕の立つ兵士の一人でもあった。
「くっ、このままでは・・・」
「隊長・・・」
時々、聞こえてくる艶めかしい声に二人は不安が隠せなかった。その時、彼はある方向へ向けて歩き出そうとした。
「隊長、何処へ向かわれるのですか?」
「・・・・・・」
「まさか、逃げるおつもりですか!?」
彼が向かおうとした先は、レスカティエの城とは反対方向の街の外だった。足を止めて彼は問いに答える。
「この国はもうだめだ。最早、魔物たちに蹂躙されるのは時間の問題・・・」
「ですが!」
「君も見ただろう!あの惨状を!ああなる前に私は国を出ていく」
「そんな・・・城に向かえば勇者や精鋭部隊もいます!彼らに救援を求めに・・・」
「その前にやられるのがオチだ!とにかく、私はこの国から脱出する!君の生き残りたいならついて来い!」
彼の答えにニリアは俯いてしまう。再度歩き出した彼に彼女はついて歩かなかった。
「・・・おい」
「・・・・・・嫌です」
「何?」
「私は・・・城に行って救援を求めに行きます。まだ、希望はあるはずです!」
「君は何を言っているのだ!?自身を犠牲にするつもりか!?」
「それでも、私はこの国を見捨てるわけにいきません!」
彼女が残って国を守ろうとする行動には理由があった。それは、彼女にはたった一人の肉親である弟が居たからだ。まだ、8つという幼い歳で城下街に残したままで、彼女自身、その安否も分からなかった。
「馬鹿か君は!もう手遅れだ!この国はもうすぐ壊滅する。無駄な行為だ!」
ニリアの意見に彼は激昂しながら近づいていく。
「私は隊長を尊敬していましたが、それほど腰抜けだったとは知りませんでした。残念です。ですので、私一人で城に向かいます」
「こ、腰抜けだと・・・」
「隊長はどうぞ御一人で逃げてください」
「っ!?」
彼女の言葉に彼は顔を真っ赤にさせる。忠実で尊敬してくれていた部下から蔑まされたからだ。そんな彼を無視してニリアは城に向かうため、彼に背を向けた。
「ふざけやがって・・・」
不意に後ろを向いた彼女に向かって、彼は剣を抜いて斬り掛かった。不意な攻撃に気付かず、彼女は背中に致命的な傷を負ってしまう。
「くあっ!?」
前のめりに倒れてうつ伏せになるニリア。それを見て彼はしゃべりだす。
「まあ、君も女性だからいずれ魔物化する可能性もある。連れていても俺自身が危険だと思っていたが・・・いい厄介払いができたよ・・・じゃあな」
血溜まりが拡がる彼女を放置して彼は国外に向けて歩き出す。
「・・・くっ・・・う・・・」
血だらけになりながらも、彼女は這いずって城に向かおうとする。目の前が暗くなり始めるも、彼女は諦めなかった。しかし、大量の血を流したその身体はすぐに限界を迎える。意識を失いかけたその時、ある見知った顔が視界に映った。
「・・・リ、ヒト・・・待っていて・・・お姉ちゃんが、む・・・ぇ・・・・・・・・・」
一つの影が街の上空にあった。それは禍々しくも白く美しい容姿を持った魔物だった。身体の所々に赤い瞳の宝石を装飾され、白い長髪と同じく白い翼と尻尾を持つ悪魔のような姿。
そう、現在、この宗教国家に侵攻
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