山中の喉奥

<都市アイビス 南東付近の森林>

 此処は材木加工場隣りの森林地帯。いつもなら、加工場の仕事人たちの声と木を伐採する音しかない場所に、聞き慣れない音が響いていた。

『アーム展開』
ウィィィン ガシッ! ウィィィン ガコォン!
「おし、さっさとあっちに・・・」

 4mもある金属の装甲を持つ巨体の上にラキが搭乗し、その巨体の左右から人の腕とは思えないカニのようなアームが出現。そのアームで伐採された大木を掴み捕り、軽々と持ち上げて運び歩く。

『ディスクレーザー刃照射』
キュィィィィィィィィ
『一刀、両断♪』

 黄緑色の装甲。ベルトを回す車輪だらけで、全体的に三角面のベルトで走行する巨体。左腕の青白い光学刃を纏う円盤が回転し、目の前の大木を斬り倒す。搭乗者はレートだ。

「では、こちらの大木は私だけで運搬します」
「え、あんた1人で?」
「ご心配なく」

 筋肉もりもりの男が金髪の男性の言葉に唖然とした。見た目は普通の体格で少し背が高いだけの男だが、大木を1人で持ち上げて周りを驚愕させる。彼は人でも魔物でもない。異世界から来た万能人型兵器レックスだった。

 彼らが何故、此処で作業しているのかというと、街のために何か貢献したいと頼んだところ、ギルドから丁度人手不足の伐採作業の依頼が来たのだ。

「ぶっちゃけ、暇だったか・・・」
『ラキ、愚痴は禁止です』
「ちっ、聞いてたか・・・」

 この場所はある魔物のコミュニティに近いため、その魔物たちと連携して作業を行っている。その魔物とは・・・。

「えっせ、えっせ」
「はい、そっちに持って行ってね」
「凄いアリさんの数・・・」
『アリって馬鹿にできないくらい力あるよ』
『彼女たち自身も、人間以上の身体能力があるようです』
「いや、人じゃねえ時点で力違うって想像つくだろう」

 彼女たちはジャイアントアントと言われ、下半身はアリのような昆虫の6本足をしている。普段は資源回収や巣の増築工事を行っているが、この付近の彼女たちをまとめる女王が都市アイビスとの交流を決定。そのため、土木作業や建築などの仕事を手伝ってくれるようになり、街を支える頼もしい労働力となった。

 彼女たちも負けじと大木は2人がかりで運搬して、木材加工場に運搬している。一方の男たちは4、5人がかりで運搬していた。

「とは言っても・・・もうすぐ終わるな」
『僕が切ったので最後だしね』
『私もこれで最後と言われました』

 彼らの言う通り、木々の伐採と運搬は思わぬ労働力で効率がよくなり、予想以上に終わるのが早まった。その原因も自身たちだと自覚している。仕事をやり終えた彼らは少し早いが、仕事人たちと昼食を取ることにした。

「「日伸カップヌードル〜」」
「3分経ちました」
「ラキ、お先に!」
「あ、レート!てめぇ!」

 ラキとレートはインスタント食品を食べ始める。無論、レックスは食べられないので時間を計る役をした。そんな彼らに何者かが近づいてくる。

「楽しそうですね?あなたたち」
「「ずるずる、んぐっ!?」」
「お疲れ様です、監督さん」

 やって来たのは、この場所の責任者であるジャイアントアントで通称『監督』と言われている魔物娘だ。他のジャイアントアントと違い、彼女は左腕に黄色の腕章をしている。聞く話によると女王候補の1人だと言われているらしい。

「変わった食べ物だな?」
「ああ、お湯を入れてしばらくしたら食える魔法のめ、痛っ!」

 レックスはラキが余計なこと言う前にデコピンで止める。レートは唖然としながら麺をすすった。

「失礼、ともかく短時間で調理できる携行食品です」
「戦場でステーキなんか焼いてる暇ないもん」
「いてぇ・・・」
「ふふ、確かに便利な食べ物だな。1口頂いてもいいかい?」
「いいよ。はい♪」

 レートはプラスチックのフォークで掬った麺を彼女の口に運ぶ。初めて味わった異世界の加工食品に彼女は驚いた。

「凄く美味しい!芯からあったまりそうなほど味が残る!」
「いててて、そりゃあ、塩が染み込んでるからな。そういやお菓子あるけど食うか?」

 おでこを押さえるラキは胸の内ポケットからチョコレートクッキーを取り出して差し出す。彼女が恐る恐る顔を近づけて匂いを嗅ぐと、慌てて手で顔を押さえる。

「うっ!そ、それは・・・変な匂いがするからダメ」
「え゛っ!?マジで?」
「チョコレートにはアリの嫌う成分が含まれているので食すことはできません」
「そんな〜」
「うぷぷ、ラキ、振られたね」
「うっさいぃ!あむっ!」

 ふてくさるラキは出したお菓子を全部口に頬張った。不意に監督が周りを見渡してため息をつく。不思議に思ったレックスが彼女に尋ねた。

「どうなされましたか?」
「あ、いや。少し人数が少ないなって思っ
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