雲1つ無い闇夜の空。その空で金色に輝く満月。そして、その満月を鏡の如く水面に映し出す、澄みきった水が拡がる湖。
湖の水辺に浅瀬があり、そこは円を描くかのように岩で囲まれた場所。その浅瀬は子どもが遊んでも大丈夫なほど浅く、人間の足首ぐらいまでしか沈まない。
そんな場所に複数の人影が集まり、それぞれ二人一組になって円を描いて散らばる。人影の正体は男女。よく見ると、若い男性と小柄な女性が一組になっている。しかも、その女性には人とは思えない特徴があった。
見た目は、黒っぽい長髪に濃い青色のぴっちりした服を着ている少女の姿。その姿に、人とは思えない魚のようなヒレが耳と手足についていた。お尻には魚の尾びれのような尻尾が飛び出している。
そう・・・彼女たちは“サハギン”と呼ばれる水棲亜人型の魔物。全てのカップルが若い人間の男性とサハギンの女性で組み合わされている。
やがて、それぞれの組が一定の距離を離れると熱愛な口付けを始めた。どちらも顔を赤らめ、お互いの身体を密着させながら求め合う。
そんな彼らを見つめている一組。人間の少年とサハギンの少女が浅瀬に入らず、眺めていた。
「みんな、気にせずやっちゃうのね」
「それが自然だから・・・」
「カシワとリルちゃんも熱々だね」
「・・・ユイ」
ユイと呼ばれた少年が少女に顔を向けると、互いの唇が重なる。数分後、名残惜しそうに二人の口が離れ、互いの口から光る糸が伝い落ちた。
「アオ・・・行こうか」
「・・・うん」
アオと呼ばれたサハギンの少女は少年に手を引かれて浅瀬に入っていく。
朝日が昇る清々しい朝。一人の少年がある部屋のベットで寝ていた。窓から差し込む朝日を気にせず、少年は眠り続ける。突然、部屋のドアが静かに開き、足音を立てずベットに近づく影が現れた。
「すぅ―すぅ―」
「・・・」
少年に近づいた影は少し間を置いて、少年に覆いかぶさった。
「ん?うわっ!?」
「・・・」
少年は突然、何かの気配を感じて目を覚ます。目を開けると、自身に覆い被さる黒い長髪の少女の顔が目の前にあった。少年が起きたのを確認すると、少女が顔を離す。
「・・・おはよう、ユイ」
「お、おはよう、アオ」
お互いにベットから立ち上がり、部屋のドアへと歩き始める。部屋から出るとそこには、焼けたパンとベーコンの乗った皿がテーブルに置かれていた。
「アオが用意してくれたの?」
「そう・・・」
「ありがとう」
「・・・ぽっ」
少年のお礼の言葉に顔を赤らめる少女。朝食を食べ終えた二人は外に出て、家のすぐ横にある畑の野菜を収穫する。籠に入れた野菜を一旦、家に置いて、今度は銛と網を持って一緒に出掛けた。
彼らの住んでいる場所は少し規模が大きい集落。小さな家々を通り過ぎて、ある場所に向かった。途中、彼らは同じ方向に向かう男女と出会う。こちらもサハギンの少女を連れた若い青年だ。
「よう!ユイにアオ。お前たちも行くのか?」
「そうだよ、カシワにリルちゃん、おはよう」
少年が青年とその隣のサハギンの少女に挨拶した。リルと呼ばれた少女は恥ずかしながら挨拶する。
「・・・お、おはよう、ゆ、ユイ、あ、アオ」
「おはよう、リル、カシワ・・・」
少年の隣の少女も挨拶を返した。4人は歩きながらしゃべり始める。
「寝坊の俺と一緒ってことは、ユイもか?」
「だから、私が起こした・・・」
「はははは、だろうな」
「むぅ、面目ない」
「・・・」
「リルちゃん、顔赤いけど大丈夫?」
「ひぃやっ!?」
少年が尋ねると、少女は驚いて青年にしがみついて隠れてしまう。
「???」
「おいおい、何も恥ずかしがるこたぁねぇだろう?」
「リルはユイに近づきすぎて、私に嫉妬されるんじゃないかと思っている・・・」
「へ?」
「ア、ア、アオ・・・」
「アオ?」
アオの言葉に彼らは目を丸くする。彼女は小さなため息をついてリルに話し掛ける。
「リル・・・」
「は、はい!?」
「心配しないで・・・怒ったりしない」
「で、でも・・・あの時・・・」
「あの時はあの時・・・今は違う、そこを解って・・・」
「は、はい・・・」
悲しげな表情でお願いするアオにリルは頷いた。不思議そうに彼女たちを眺める少年と青年。見かねた青年がリルの手を引っ張って走り出す。
「ほら、辛気臭くしてないで。ユイ、アオ、そろそろ早めに行くぞ」
「あ、ま、まってカシワ・・・」
「確かにそうだね。アオ、行こうか」
「うん・・・」
4人は道に沿って走り出す。
彼らがやって来た場所は巨大な湖。水辺付近に木材で作られた小さな桟橋があり、そこにはすでに多数の人影が居た。どれも人間の男性やサハギンの少女たちで、付近には焚き火も
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