第五章 紅玉と錬金の恋心 前編

 今日は工房が騒がしかった。
 炉が壊れたのかと思い欠伸をしながら工房へ向かうと、朝刊を片手にお父さんとお母さん、そしてアルヒミアが何かを話している。

 「おはよう、どうしたの?」

 「あっ、ルヴィニ。ちょっとこれ見なさいよ。」

 アルヒミアが僕に朝刊を渡してくれた。

 「うん・・・。¨憲兵署にて強姦・・・。接近戦総括長のスギロス氏が・・・、総隊長スパスィ・ネフリティス氏を宿舎内で強姦しようとした・・・。幸いスパスィ氏の夫エルフィール氏が早急に駆けつけ未遂に終わったが・・・、スギロス氏は総括長の職を解職となり現在は独房入りとなっている・・・。¨」

 記事を見て目を疑ってしまう。
 スギロスさんはこの店の常連で、つい先日も重剣を納品したばかりだったから。

 「驚いたでしょ?」

 「そうだね・・・。スギロスさんなんでこんなことしたのかな・・・?」

 「それは書いてないからわからないわって、驚くところが違う!こっちよこっち!」

 朝刊をアルヒミアにとられ、彼女は記事のある部分を指す。

 「スパスィ氏の夫エルフィール氏・・・。えっ・・・?」

 「そうよ。あの娘いつの間にか男を見つけてきてるのよ!絶対アタイの方が先だと思ったのに!」

 「あらあら、スパスィちゃんに夫が出来てそんなに悔しいの?」

 「当たり前です!同じ歳の飲み仲間なんですから、悔しいに決まってるじゃないですか!」

 「ルヴィニもそうなの?」

 「私は・・・、驚いただけ・・・。でもどんな人なんだろう・・・?」

 「気になるのかい?」

 「うん・・・。」

 「ルヴィニも御年頃なんだね。ちょっと寂しくなるな。」

 お父さんが遠い目をして私を見てる。
 まだ恋人も出来てないし、結婚するわけでもないのに・・・。

 「アナタ、まだ先のことでしょ?それとも、もう一人娘を作って寂しさを紛らわします?」

 「そうだね。次の仕事が終わったら励んでみるか。」

 「あらやだ。頼もしい。」

 娘の私やアルヒミアがいる事なんて構わずにお父さんとお母さんは家族計画の話で盛り上がっていく。
 アルヒミアはうらやましそうな目で二人の会話を見ている。
 僕に妹ができる日も近いかもしれない。





 「やっぱりアタイも彼氏欲しいなぁ・・・。」

 「まだ言ってる・・・。」

 朝刊の一件を引きずりながらアルヒミアは一本の剣を仕上げていた。
 一般的に普及しているショートソードより刃の掘りが鋭く、お父さんが打つジパングの刀より刃渡りが広い。

 「あれ・・・?それスパスィさんの・・・。」

 「課題の剣ね。ルヴィニも早く設計してトリマル親方に見せないと。アタイが先に巣立っちゃうわよ?」

 「うん・・・。」

 課題。
 僕達の工房、¨鍛冶処「不二の鎚」¨では多くの職人が生み出されていった。
 人間、ドワーフ、サイクロプス、その他様々な種族が門戸を叩いて弟子入りし、巣立っていく。
 その巣立ちに関して行われるのが課題。
 自分の作りたい武器、防具を作図してお父さんとお母さんに提出。
 二人の製作許可が下りれば製作してお店に並ぶ。
 最後にその品が売れれば晴れて合格という流れだ。
 僕は作図の段階にまではいっている。
 だけどお父さんとお母さんの製作許可が下りない。
 お父さんには使い手を選ぶと言われ、お母さんからはあなたは何と戦うつもりで作図したの?と言われてしまった。
 そんなにおかしなものは作図してないはずなのにとアルヒミアに一度見せたら、浪漫の塊ねといわれてしまう。
 次は何を作図しようかと、彼女が刃を見つめる姿を見ながら考えているとお客さんが来た事を知らせる鐘が鳴る。

 「いらっしゃい・・・。あっ・・・。」

 工房から店のカウンターへ行きお客さんを出迎えると、そこにはスパスィさんと男性の姿があった。

 「久しぶりだな、ルヴィニ。元気だったか?」

 「うん・・・、元気だった。隣の人・・・、旦那さん・・・?」

 「この人は旦那様といったら旦那様なんだが少し違うんだ。」

 「・・・?」

 スパスィは何か説明し辛そうな顔をして、言葉を探している感じだ。

 「実は・・・。」

 「あら、聞き覚えのある声と思ったらスパスィじゃない。旦那を連れてのろけにきたの?」

 奥からアルヒミアが出てきて彼女が話しだそうとしたことを途切れさせてしまう。

 「アルヒミア、のろけに来たわけじゃないよ。あっ、旦那様。この娘は鍛冶処の娘でサイクロプスのルヴィニ。こっちの娘はここに弟子入りしているドワーフのアルヒミア。」

 「エルフィールだ。ルヴィニ、アルヒミア。よろしく。」

 「あ・・・、う・・・。よ・・・、よろしく・・・。」

 「いい男じゃない。よろしく、エル
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