第三章 翡翠の剣 前編

 鋼のぶつかりあう音が平原に鳴り響く。
 私は男と刃を交えていた。
 その男を知ったのは、とある町の広場。
 子供達の会話を聞いた時だ。
 祝福もうけていない、淫魔化もしていない男が教団の騎士の大軍を一人で撃退したという。
 会話を聞き終わった後、身体の中の血が滾る様な感覚に襲われた。
 これも私がリザードマンという種である証なのだろうと。
 強者と戦いたい、その衝動が血を身体を熱くさせる。
 男の姿を広場で宴の席で見詰め手合わせできる機会を窺っていく。
 そして、機会は早々にやってきた。
 男が宴の終わった早朝に町を立ち、平原で手合わせを申し込む事ができたからだ。



 「やっと追いついたぞ!さあ!尋常に手合わせ願おうか!」

 「はい?人違いでは・・・、手合わせする理由がないんだが・・・。」

 「お前、教団の騎士団を壊滅させたそうだな。その強さが手合わせする最大の理由だ。さあ!」

 鞘からショートソードを抜き、構える。

 「目的はなんだ?強いからだけじゃないだろ。あの短時間で指名手配や賞金がかかるはずはないから・・・。名声か?」

 「名声などどうでもいい。そうだな、私に勝ったら教えてやろう。」

 「割とどうでもいいが、手合わせしないとずっとついてくるんだろ?」

 「無論だ!」

 男は溜息一つして、鞘から剣を抜く仕種をすると何もない空間からロングソードが出てきた。
 どの様な仕掛けを使ったのかは解らないが、私と男は構え合い対峙する。

 「いつでもどうぞ。」

 「では・・・、いくぞ!」

 剣を中段に構え、距離を詰めて斬り込んでいく。
 使い慣れたショートソードの長所を生かし、男の隙が多い部分を狙っていくが最小限の動作で、その部分を防御され斬撃が届かない。

 「よい、斬撃だ。では、こちらも!」

 今度は防御するのではなく鍔迫り合い持ち込まれ、そのまま斬撃の打ち合いになる。
 激しく鋼がぶつかり、幾重にも斬り結ばれた後互いに距離をとった。

 「教団の騎士達を相手にするより、やり応えがあるな。」

 「はぁ!はぁ!そうだろう!」

 こちらは息が上がりそうなって距離をとったが、男の息は乱れていない。
 この男、どれだけ体力あるんだ。

 「息が乱れているな。これぐらいで手合わせは終わりにしないか?互いに力量もわかっただろう。」

 「駄目だ!どちらかが地に倒れるまで決着はない!」

 「そうか・・・。」

 その言葉とともに男の辺りを取り巻く空気が変わった。
 殺気の他に何か圧迫するものが放たれ身体にビリビリとくる。
 手にもっていた剣はいつの間にか消え、半身になり腰から何かを抜く体勢になっていく。
 
 「あれは・・・。」

 何をしてくるのかと考えていると、次の瞬間に男は猛スピードで私に突っ込んできた。
 距離は一気に縮まりロングソードが斬れる範囲まで近づいてくる。
 私は剣の側面と腕を合わせて、相手が放ってくる刃の位置を予測し防御をして迎え撃つ。
 鋼のぶつかる音とずしっとくる斬撃。
 男の攻撃は予測した位置に来たが、誤算があった。
 一つは放たれた斬撃が想像以上に重かったこと、一つは斬撃が二つ放たれていたこと、そして男は受け止められたにも拘わらず、二撃とも振り抜こうとしたことだ。

 「ぐっ・・・。」

 足に力を入れ踏んばるが、相手の力に押し負けて後方へと吹き飛ばされてしまう。

 「きゃ・・・。」

 背中から地面に叩きつけられ、軽く痛みが走る。
 すぐに起き上がり剣を構えるが柄から違和感が・・・。
 鈍い音とともに防御した部分が折れてしまったのだ。
 私はそのこぼれ落ちていく鋼片を目で追ってしまう。

 「これで納得か?」

 砕けたものに気をとられ、前に視線を戻すとそこには刃が待っていた。

 「ああ・・・。」

 敗北を認め、返事をすると男はどこからか鞘を取り出してロングソードを収めていき。
 そして私にその剣を渡してくれた。

 「・・・。なぜ剣を?」

 「折るつもりで攻撃したからな。替えを渡さないと後味悪いだろ?見たところ君も旅をしているみたいだから。剣がないと不便だと思ってね。」

 「しかし、旦那様の剣が・・・。」

 「まだあるから大丈夫だよ。旦那・・・、様?」

 「そう、旦那様は私に勝った男。その強さ、その優しさ。私が求めていた男・・・。」

 「まさか目的とは・・・。」

 「気付いたか?私の目的は自分より強い男を夫に迎える事さ。」

 旦那様から貰った剣を両手でギュッと抱きしめ側へと歩みよっていく。

 「はははは・・・。自分を負かした相手の伴侶となる?悪い冗談だ・・・。」

 ジリジリと後ずさりする旦那様に合わせて、私も歩を進め前へ出る。

 「それがリザードマンと
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