第一章 信仰と命の天秤 前編

 雲一つない海の色をそのまま映したような蒼空の下、平原を歩いていると遥か前方から土煙を巻き上げて塊がこちらへ向かってきている。

 遠目で見るに馬に乗った人型の何かだが、どこへ行くんだろうか。

 俺は邪魔にならないように進路とおぼしい道筋からずれたのだが、土煙の塊は進路を変えてこちらを目標として向かってきているみたいだ。

 「丁度いい、近くに村か街がないか聞いてみるか・・・。」

 情報を得るためにこちらもあの塊の方へと距離を縮めるために歩きだす。

 しばらくするとお互いの姿がはっきりと判る位置まで近くなる。

 どうやら土煙を巻き上げていたのは騎士たちのようで、騎乗したままゆっくりとこちらへやってきた。

 「おい、貴様!見慣れぬ服装だな!ここで何をしている?」

 「旅をしている者だが・・・。」

 「旅?そんな軽装な状態で旅などするか?貴様、魔物の手先ではないのか?」

 「魔物の手先?なんだそりゃ!?」

 今まで色んな世界を旅してきたが、いきなり強襲を受けたことも、敵対勢力と勘違いされたことも、獲物とみなされてたこともあったが、魔物。

 こちらの知識の中で異形と思われるものに間違われたのは初めてだ。

 「なんだ、奴らの方へ寝返った不浄者ではなかったのか?ふん、紛らわしい!」

 「いやいや、勝手に勘違いしたのはそっちだろう!」

 「うるさい!我々は神の代行として動いているのだ!少しの間違いは許される!」

 「おいおい、そりゃ強引ってもんだろう。」

 「黙れ!それ以上言うと神の名において裁きを与えるぞ!」

 自分の間違いを認めず正統化しようとし。

 あまつさえこいつは腰の剣に手をかけようとしている。

 どこの世界でもこんな奴はいるんだな・・・。

 「わかったわかった。勘違いさせたこちらが悪かったよ。」

 「解ればいいんだ。」

 こちらが謝罪をすると、満足そうな声を出し機嫌が治る。

 嫌いだな、こいつ・・・。

 「で、悪かったついでに聞きたいんだが・・・。」

 「図々しい奴だな、言ってみろ。」

 お前ほどじゃないよ。

 と言いたくなるのをグッと堪え情報を聞きだしていく。

 「近くに村か街はないか?旅の道具を一式なくしてしまって補充をしたいんだが・・・。」

 「お前本当に旅人か?道具一式をなくすなど余程のことだぞ?」

 肩を震わせながら、こちらの話を聞いている。

 ふと、後ろの二人に目がいくと、こいつらも同様に肩を震わせえいた。

 どうやら三人とも笑いをこらえているみたいだ。

 さっきの言葉を訂正しよう。

 大っ嫌いだこいつら。

 「事情があるんだよ、事情が。それで、あるのか?」

 「何がだ?」

 「村か街だよ!」

 笑いを堪えるのに必死で、聞いたことが頭からこぼれていたらしい。

 こんな状況でなければ殴りとばしてやりたいわ・・・。

 「あぁ・・・。村か街か。我々が来た方へ少し行けば小さな町があるぞ。」

 「そうか、ありがとう。行ってみる。」

 騎馬の横を通り、村へ向かおうとすると呼び止められる。

 「おい貴様!」

 「なんだ?」

 「気をつけていけよ。」

 「ああ。」

 最後はまともなのだなと思いながら騎士たちから離れて町を目指していく。

 少し歩くと後ろから風にのってデカイ笑い声が聞こえてきた。

 あいつら・・・、今度会ったら絶対泣かせてやる。

 騎士から聞いた情報通りに彼らが通ったと思われる道筋を歩いているが、町は一向に見えてこない。

 そういえば、あいつら土煙が出るほどの速度で走ってたな・・・。

 まさかと思うが、馬に乗ってあの速度で少しとか言ったんじゃないだろうか。

 いやいや、流石にそこまで馬鹿じゃないだろう。

 そうでないように祈りつつ、平原を進んでいった。

 「あいつら・・・。次会ったら殺す・・・。」

 辺りに日はなくなり、夜が顔を現す頃。

 俺はまだ平原を歩いていた。

 方角が違うのか、それともまだ距離があるのか。体力はある方とはいえ歩きっぱなしは正直辛い。

 魔物云々がいる、という話もポロッと聞いているので能力が戻っていないうちは迂闊に野宿はしない方がいいだろう。

 そう考えつつ、夜通しで歩く覚悟をしたが、そんな覚悟は不要だった。

 まだ小さくしか見えないが町の入り口を示すものと思われる明かりが見えたからだ。

 で、安心した所を魔物に襲われたりとか実は町ではありませんでしたということはなく。

 無事町に辿り着いた。

 入口で見張りをしている自警団の人とおぼしき人の確認を受けて町の中にはいる。

 さっそく宿屋にと思い、探そうとしたが重要なことを思い出した。

 現在文無し、売却できるようなもの
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