物乃怪複鳥草紙 −妖狐、稲荷編−

 ここは霧迦具土の端、県境となる土地。
 元々この地域は古い時代三つの国だった。
 海運の要、ジパングから大陸への貿易をして巨万の富を得ていた水の京を有する¨天川¨。
 鉱山資源が豊富で金山と鉄の鉱脈で富を得ていた火の京有する¨鉱府¨。
 広大な平野と水資源を持ち、作物の収穫で二つの京から富を得ていた土の京を有する¨穀穣¨。
 その三つの国が一人の殿様によって統一され出来上がったのが霧の国で霧迦具土の走りとなったものだ。
 口上が長くなったが物語とはまったく関係・・・、なくもないか。
 とにかく俺はその県境・・・、穀穣は端に通る国道で食い物家¨黄金庵¨を営んでいるってそれだけのことさ。
 宵ノ宮から黒垣に抜ける道路でもあるんで小さいながらもそれなりに繁盛しているんだが・・・。
 交通の要所には店を構えたがる奴等が多い。
 特に食い物屋はな。
 周りにコンビニや飯を補充できる場所がなければ不味くない限り黙っていても客は来る。
 だから軽く飲食店の激戦区にもなりやすいのだ。
 そしてつい先日、客足に波が出始めた。
 なぜかというと俺の店の隣に出狐狸亭という飯屋が出来たからだ。
 その波が自分にまで変化を及ぼすとはこの時は思っていなかった。



 「毎度あり〜。」

 店に居た最後の客が勘定を払い終えて出て行く。
 その後ろ姿を見送りながら昼間の掻き入れ時である山を乗り切ったことに軽く安堵するのだが、まだ一日は終わっていないし、夜に向けての仕込みもある。
 そして何より・・・。

 「羽やん〜。御飯頂戴〜。」

 「赤羽はん、いつものよろしく。」

 「羽の字!いつもの大盛りやで!」

 戸が勢いよく開くと魔物娘達が入ってきた。
 妖狐に稲荷、刑部狸。ミノタウロスやホルスタウス、オーク。ハーピー、ブラックハーピー。ラミアにメデューサ、更にエキドナ。サハギンに河童、そして最後にカリュブディスにマンドラゴラと大人から子供まで狭い店内の中に詰め込まれていき各々が自分達の席へと座っていき注文をしていく。
 そう、安堵したのも束の間彼女達の昼食の時間となるから山を越えても休めないのだ。
 ちなみにこのお嬢様方は隣店を構えている出狐狸亭の従業員達で賄いの出す御飯組みからあぶれたのでこっちで食事をしているらしい。
 一度、周りにもたんまり飯屋があるだろうと聞いたところ、味と値段でうちに勝る店がなかったそうだ。
 嬉しいのやら悲しいのやら。

 「ん?全員いつものでいいのか?」

 彼女達が注文するものは決まっていて、一応の確認をするために聞いてみるが返ってくる言葉は・・・。

 「問題なし〜。」

 「ええどすよ〜。」

 「確認はいいから早く作ってくれ〜。」

 まあこんな感じで聞くまでもないことなのだが、常連化しつつあるといってもお客はお客、蔑ろにはできない。
 頭の中で各自に作る品を復唱しつつ調理へと入る。
 最初は定食組みのものから作っていく。
 付け合せのキャベツ、レタス、トマトを刻み、割って、切り分けていき更に盛ると業務用の冷蔵庫に寝かせていたハンバーグとコロッケのタネと調理用の大きさに切られた豚肉、牛肉。
 それと白い塊を取り出して次へと行程を進めていき。
 揚げ物用の鍋とフライパンを出すと火にかけて鉄と油を熱されていくのを待ち。
 その間に人数分の茶碗と御椀を並べて汁物を作る準備へと入っていった。
 準備といってもこちらも沸かして適温まで持っていくだけのことだ。
 沸騰させてしまうと出汁袋の中に入っている素材から旨味以外のものも出てしまう。
 また中途半端な温度では具材に火が通らずに汁の味を濁らせてしまうから簡単というわけではない。
 予め袋を浸しておいた水入りの鍋を別の焜炉において火をつけて油とフライパンへと向き直る。
 熱を吸い、いつでも焼ける状態の鉄板と小さな気泡を出してまだその時ではないと静かに待っている揚げ湯。
 揺ら揺らと陽炎が浮かぶ相棒の一つに牛脂を入れてここから調理は全て終わるまで止まることがない。
 ビフテキを焼き、フライパンを替えてポークチョップを焼き、また鉄板を替えてハンバーグを焼く。
 色々な肉が焼けていく匂いが立ち込めていく中、蒸したり余熱で火を通している間に汁鍋に具材を入れ、準備の整った適温より少し高い油の中にコロッケや白い塊と間髪入れずに揚げていき第一陣の定食群を作り上げた。

 「ステーキ定食、チョップ定食、ハンバーグにコロッケ。厚揚げ定食お待ち。火傷するなよ。」

 カウンターの上に盆を置いていき、次の丼ものを注文している第二陣の調理に掛かる。
 ちなみに厚揚げ定食は何の変哲のない厚揚げが皿に乗っているだけの代物だ。
 ただし、作り立ての豆腐を水切りして揚げて出している。
 自分で試してみて美味
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