反響されて洞窟内を駆け抜けていく歌声。
把握した地形を頭にいれ出口となる空気の取り入れ先を目指していく。
だが足を上げる度に全身に痛みが襲い、喉の奥から込み上がってくるものに詠唱の邪魔をされ。
ついに咳払いと同時に地面にぶちまけ、そこで術式は途切れてしまう。
「ゴホッ、ゲホッ。もう少しだったんだが・・・。無理が祟ったか・・・。」
舌に残る鉄の味に顔を顰め、闇が支配する暗い空間の中で土壁に背を預けてその場にへたり込む。
力の酷使が器の限界を超え、魂をすり減らしてまで術を使えばこうもなるのは当然のこと。
息が荒くなっていき、回復するまではここを動くのは無理であると判断し身体を休めることにした。
「彼女達は上手くいってるのかな・・・。」
ひんやりとする壁の冷たさに心地よさを覚えつつ、仲間の安否を考える。
ミラは戦闘に入っていたようだが、無事だろうか、アルヒミアは迷うことなく出口へ向かえているだろうか。
自分の力を貸しているがどうしようもない不安に駆られ上を見上げた。
ここで心配してもどうにもならないのだが、考えずにはいられない。
変な方向へと思考がいきかけていると不意に少し強い風を感じそちらの方を見る。
ミラへの補助をかけている時に少しだが四つの通路に通じる先を調べた。
二つは賊達の寝床で一つは頭領格の部屋、後一つ。
今いる場所の先には空気を運ぶ為の坑道があることが分かったのだが、細部まで探れるほどの力は無かったために大雑把にしか出来ていない。
そして今、頬を撫でる風が吹いている。
最初の考えでは細かい坑道が多数に存在し、支流から本流に流れ込んでいる川のように感じていたが、それは違っていた。
本流、大きな流れがありそれに支流が合わさっていたのだ。
「まさか、別の出口があるのか?いやありえないことじゃないな。確認が出来れば流道を使わなくて済むのだが・・・。」
淡い期待が生まれ、動けるようになり次第向かってみようと考えるのだった。
ミラの視点
枝を撓らせながら木々の上を飛び移り私は移動しつつ後方を確認する。
怒声をあげながら土を蹴り追ってくる男達、その数は八人。
始めの頃は十五人程居たのだが、奇襲と罠を用いた攻撃でここまで減らせてきた。
この盗賊達と先頭になったのはエルフィール達を見送ってから暫く過ぎての事だ。
馬車を森に隠し偽装と迷彩を施し、引き手も離れた場所に手綱を括り付けて一息付こうとしたところで森の違和感に気付く。
陽は少しずつ顔を出して光を漏らしているのに動物や鳥の鳴き声というものが一切聞こえてこない。
ここはアグノスの大森林北部、生態系に変化などなく自分達が住んでいる中央部と大した差などないはず。
ならば、何か脅威となるものが活動していて動かない方が懸命であると悟っているのだろう。
それを確認するために賊が使用している通路を、目撃されにくい森林地帯の中を逆走していき。
そして浮かれた気分で塒へと帰路に着く奴らと出会ったのだ。
後は所々に罠を張り、一人ずつ誘き寄せたり不意を突いたりして確実に一対一の状態で片付けていった。
それで今の現状なのだが、矢が尽きてしまい、反撃の一手が打てずにどうするかを考えながら逃げ回っている。
「さて、どうしたものか。」
腰に結び付けている巾着に手を添えて、これを使用するべきか考察するが彼の負担を気にしてしまい躊躇してしまう。
「自分で何とかしないと・・・。」
エルフィールが班分けをしたときに全員に手渡したもの。
深緑の色だがそれよりも淡い色をしたものと、湖の底を映しとった様なこれも淡い色をした二つの硝子玉を私達にくれたのだ。
彼は危機に陥った時に名を呼べば私達の助けとなってくれると言っていたが、これは大森林で起きた火事を鎮火した時に雨を降らせた術具と同じもの。
だったらやはり安易に使えない。
そうなれば残りは・・・。
「接近して倒すしかないか。」
覚悟を決め、地面に降りて相手と対峙する。
「鬼ごっこは飽きたのか?お嬢ちゃん。」
「ここまでしてくれたんだ。償いはしてくれるんだろうな。」
下品な笑い声を上げて、気味の悪い目線でこちらを見てくる盗賊達。
悪寒に身を震わせながらも斬り込む糸口を探していくが鬱蒼と茂る森の中は視界も限られ、動きも制限されてくるので中々動くことができない。
「囲んで一気にいくぞ。」
「おう!」
木という柱があるにもかかわらず、賊達は散らばっていき私の周囲を固めようとするがそれは糸口をこちらに与えてくれたという事に気付いておらず。
「ぐぅ!?」
一番薄くなった箇所へと飛び込んでいき、男の胸元に短剣を突き立てて押し倒すと敵の包囲
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