第十四章 揺らめく灯

 「異世界から来た人間?」

 「そう、俺はこことは違う場所からきたんだ。」

 手綱を握り馬車の操作席で彼女達に自分の事を浅く話しながら風の吹き抜ける石畳の上を進んでいた。

 「なるほどエルフィールのいた所にもエルフがいて。だから古代エルフ語を知っていたのか。」

 「ああ、だがこちらのものと寸分違わないとは思っても見なかったがね。」

 腑に落ちたのかミラから納得の色が窺える言葉が出てそれが耳に届く。

 「ねぇ、エル。そっちの世界ってどんなところなの?ドワーフもいる?」

 続けてアルヒミアが質問を投げかけてきたが、どうもそれに答えられそうにない。
 空気が焼ける音、高熱の物体が近づいてくる流れを感じる。
 どうやら町を出た後にこちらを見据えていた奴等が仕掛けてきたようだ。

 「アルヒミア、それは後で答えよう。みんな、端に捕まってくれ!馬を走らせるぞ!」

 相手側から放たれたものが目標物に届くまでに幾分かの時間があるが、悠長にしていたら進路を塞がれ馬の足も止められてしまうだろう。
 早急にこの場を離れる為に緩やかな歩調で歩いていた運搬役に鞭をいれ加速を試みる。

 「えっ?えっ?」

 「ちょっ!?待ってよ!」

 とっさの指示にミラはアスミィの身体の固定につき、スパスィはルヴィニとアルヒミアを馬車の端へと押しやり自身も隅へと移動して加速の衝撃に備え。

 「辛抱してくれよ!」

 不意に痛みを与えられた引き馬は猛々しい鳴き声を発し急加速を始め。

 「きゃ!?」

 「うわっ!?」

 急激な上下振動と後ろに引かれる重力を全員に振りかけていき。
 蹄鉄と石がぶつかり合う音を響かせながら街道の上を回りだす車輪。
 暫く進んでいくと頭上を通り過ぎていく紅い塊が見え、先程までいた場所を囲むように炎が降り注がれ後方は火の海と化していった。

 「何!?何が起こったの!?」

 「後ろの方が真っ赤になってるよ!」

 「恐らく火の魔法でも放ってきたんだろう。しかし、奴等との距離はまだあるな。スパスィ。」

 「どうした旦那様。」

 「手綱を頼む、合図を出すからそれまではこの速度で突っ込んでくれ。」

 「わかった。」

 「ミラ、上に上がるぞ。」

 「上にか?」

 「ああ、相手が次に打ってくる手をかわす為には上がいい。」

 「そうか了解だ。」

 「私達はどうするの?」

 側面板にしがみつき、身体を揺らしながら自分たちの役割りを聞いてくる二人。

 「アルヒミアとルヴィニはアスミィに負担が掛からないように固定して。止まった後は中でジッとしていてくれ。」

 「うん。」

 「わかったわ。」

 「じゃあ旦那様、持ち手を変わろう。」

 「頼んだ。ミラ、先に上がってるぞ。」

 こうしてる間にも第二波が近付いている事を感じ取り、馬車に負担をかけないよう天幕の部分へと上がり街道の先を見据える。

 「これでも相手は見えないか。」

 「見えない?どういうことだエルフィール。」

 「見ればわかるさ。後、骨組みの上に乗って釣り合いをとれよ。」

 登ってきたミラに俺の見ている眼前の光景を見るように促す。

 「これは・・・。」

 彼女の視界に入ったのは小高い丘。
 視野の狭い乗り物の中からでは全体にわからない情報だ。

 「この通りだ。恐らくあの魔法を放ってきたやつは向こう側にいるんだろう。」

 「どうするんだ?相手が見えなければ矢の当てようがないぞ。まさかこのまま丘を越える気か?」

 「そのまさかだ。」

 見えない以上は近付くより手はない。
 遠距離広域に干渉できる術も持ち合わせているが昨晩や昼前に力を使い残量も限られている。
 ならば最小限の力で懐に飛び込み接近をもって事態を収拾した方がいい。

 「正気か?っと、次の攻撃がきたぞ。」

 「十分正気さ。足を止めたらこれを放ってくる奴の思う壺だな。」

 両手を合わせてルヴィニ製の傘を取り出すと、それを素早く広げて火球を受け止め。

 「こいつは布石。火の海に包み込み体力を消耗させて襲い掛かる魂胆なんだろう。」

 石畳の方へと弾き落とし空気を糧に燃える火種を余所に再び前を見据えると段々と丘が近付いてくるのがわかる。

 「ミラ、火球は俺に任せてとにかく馬車の上にいることに慣れてくれ。」

 「いいのか?釣り合い取る感覚ならすぐに身につくが・・・。」

 「エルフなら朝飯前といったところか。じゃあ、術士への牽制と馬車に近付く者の処理を頼む。」

 「なに?」

 再び飛んできた火を弾き退けて指示を出すとミラが首をかしげるが。

 「もう暫くすると丘の上へと到着する。そこから奴等との戦闘だ。まずは狙われるのは馬、それからスパスィとミラ。最後に馬車の中にいる三人
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