「椿と牡丹が嫁いだとさ。」
「ほう、あの碁狂いを射止めた奴がいたか。」
作りかけた薬を棚に置き、話しかけてきた奴の方へと顔を向ける。
「酒蔵の若旦那だそうだ。」
「酒蔵?鳥丸のところか?」
「知ってるのかい?」
「ああ、酒は百薬ともいうからな。奴とは知識を分け合った仲だ。」
今話しているのは青鬼の桔梗で、うちの薬屋の馴染み客だ。
この桔梗、鬼なのに酒に滅法弱い。
こいつと出会ったのは薬用の草や実を採りに山を歩いてた時のことで。
乾燥させて砕いて用いるもの、煎じて煮出すことにより効能があがるもの、それらを探して草木を掻きわけて行くと木に凭れ掛り顔色を悪くしてる奴がいた。
職業柄、そんな状態のものを捨て置くことなど性分が許さないので近づいていくと。
それは物乃怪で、しかもえらく別嬪だ。
だが、酒気をまとっており今にも死にそうな顔をしてるのでは台無しと言わざる得ない。
俺は手持ちの薬草を二日酔いに効くよう配分し煎じてやり、飲ませてやる。
すると気分が優れてきたようでえらく感謝され。
そこから付き合いが始まったのだ。
「それにしても相変わらず臭いねぇ。ここは。」
「薬屋だからしょうがないだろう。で、それだけの世間話でもしにきたのか?」
「いや、嫁いだ祝いに宴があるそうだから誘いに来たんだよ。」
「ふむ、奇遇だな。俺も桔梗を誘おうと思っていたんだ。」
薬箱の上に置いてある書状を手に取り、桔梗へと振ってみせる。
「なんだ、お前さんの所にもきてたのか。」
「知識を分け合った仲といっただろ?」
膝を立てて立ち上がると彼女の肩を軽く叩き、家の出口へと向かう。
刻限的に、そろそろ宴が始まる時間だからな。
「おい、薬はいいのか?」
「あの状態でしばらく寝かせないといけないからな。放置でいいんだよ。」
「そうか、って。待て!紅鳥!」
「はよこんと戸を占めるぞ?」
「お前はいつもそうだ。もうちょっと私に優しくしてくれてもいいだろう。」
「青鬼のお前に優しく?冗談。」
ケラケラと笑いながら手を振り。
家に錠をかけて目的の場所へと歩き始める。
日が傾きかけた道をボロの小袖と虎晒しに腰巻の二人組が仲良く進んでいく。
擦れ違う人々は頭を下げたり、驚いたり、見惚れたりと忙しいもんだ。
「そういえば、お前。いまどこにいるんだっけ?」
「椿と牡丹がいたところから奥へといった場所だ。何も変わらない所だよ。」
「ふぅん・・・。」
「急にそんな事を聞いてどうしたんだい?」
「なんとなくだよ。」
「なんとなくねぇ。」
何気ない会話をしながら畦道を通ったり、土手を歩いたり、大通りを通ったりして目的の場所へと辿りついた。
「おう、鳥丸。きたぞ。」
「紅鳥!来てくれたか!」
「桔梗もよく来たね。隣のは旦那かい?」
「ちょっと薬臭いがいい男じゃないか。」
「だん・・・!?違う!こいつは世話になってる薬屋だ!」
何を思ったのか顔がみるみる真っ赤になっていく桔梗。
青鬼なのに赤鬼の様だ。
こりゃ、面白い。
「そういうことにしておこうか。中じゃ宴がもう始まってるからな。入った入った!」
「料理も酒もたんまり用意してるぞ。」
もう少しこいつの恥じらう顔が見たかったが、強引に屋敷の中へと連れていかれてしまう。
残念。
宴が始まってる場所へと着くと、そこでは大騒ぎが始まっていた。
椿や牡丹と同じ赤鬼や稲荷、女郎蜘蛛に猫又。
提灯お化け、濡れ女子。
様々な物乃怪やとその伴侶。
そして普通の男女もそこにおり。
酒を飲み、料理を食べて楽しく騒いでいる。
「さて、俺達も加わろうか。」
「ああ・・・。」
先ほどの事を引きずっているのか、どこか様子が変だ。
というより、部屋に漂う酒気に当てられてないか?
とりあえず空いている席に座り、運ばれてくる料理に舌鼓を打つ。
「あら、紅鳥先生。来てらしたんですか?うちの御酌いかが?」
「いただこう。いいね、美人に酌をしてもらえるなんて。」
「口が上手いですわぁ。先生、どうぞ。」
「おっとと、ありがとう。」
盃に満たされる酒を一気に飲み干して空にする。
「いい飲みっぷり。惚れてしまいそう。」
「そうか?いや、参ったな。」
酒の席での定番の様なやりとり、それを堪能しているだけなのだが隣で無粋に怒気を垂れ流してる奴がいた。
「お前ねぇ。どうしたよ?そんな気難しそうな顔をして。」
「し、知るか!」
からかい過ぎたかと思っていると、桔梗は目の前に置かれた徳利を数本鷲掴みにしてその中身を一気に飲み干していく。
あーぁ、そん
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