「さてさて、毎年の如く醍醐味を味わいに行くとしますか。」
親父の爺さんが育ててくれた野菜。
胡瓜とトマトを笊に入れて家の近くにある小川へと足を運ぶ。
サラサラと聞こえる音が心地よく、水の流れが清涼を届けてくれる。
「ここら辺だよな、っと。あれだあれだ。」
整備もされていない不揃いな石ころがゴロゴロと転がっている川辺を歩き目的の場所まで向かっていく。
突っかけの裏から伝わる石の形。
丸いもの、尖ったもの、平たいものと感触を確かめながら進んでいき痛い思いをしながらもようやくそこへとたどり着いた。
「痛たたっ、歳食うごとに痛くなるな。さっきなんて足の壷に直撃で入ってきたし生活考えないとなぁ。」
石の上を歩くだけで自身の身体のくたびれ具合を感じるとは情けないことだ。
「まあ、生活の事は後として。お楽しみお楽しみっと。」
脇に抱えた笊を水に沈め、追加の重しで缶麦酒を四本ほどいれてその場を離れる。
ジリジリと照りつける太陽、下流の方では子供達が人魔混じって楽しそうに遊ぶ姿があり。
上流では野菜が冷えるのを待つおっさん(俺)が一人。
川に入ることも考えたが大の大人が川に浮いているのも変な話だろう。
どうするかと考えていると、仕事の疲れが出てきたのかウトウトしてきたので土手の斜面に寝転がり麦藁帽子を顔にかけて昼寝をすることにした。
蝉時雨、飛行機の貫くような動力音、子供達のはしゃぎ声。
深い眠りと合わさって夢の中で何か語りかけてくるものがいる。
「・・・!・・・丸!」
「ええぃ!これでどうだ!」
眠りの世界からいっぺん、頬に当たる冷たい感触で夢から現実に引き戻されて勢いよく飛び起きた。
「冷てぇ!?何するんだよ!おい!」
「あははは。ごめんごめん、折角会える時期が来たのに。いざ会ったら寝てるんだもの。ちょっとぐらいいいでしょ?」
片手に持った缶麦酒を左右に振りながら、悪気もなく微笑んでいる女性に文句を言う。
「寝てて悪かったと思うが疲れてたんだよ。もうちょっと優しくしてくれてもいいだろ?」
「最初は優しくしてたよ?でも、それじゃ起きなかったんだもん。」
頬を膨らませて抗議してくる。
彼女は清水 緑、俺がここに来たもう一つ目的のやつだ。
「もうちょっとマシな起こし方があっただろうが。」
「あれが一番効果的なんだもんね。」
「効果的なんだもんね。じゃねぇよ!ん?」
怒りの方に気をとられていて気がつかなかったが、笊の方に視線を向けてみると何かが足りない。
缶麦酒を一本緑持ってるのはいいとして、更に足りないものがある。
「み、緑ぃ〜。」
「河童の好物を無防備に置いておく方が悪いんだよーっ。」
舌を出しながら川の中へと逃げていく緑。
彼女は俺が冷やしていた胡瓜を全部平らげて麦酒も一缶開けて飲んでいたのだ。
持っているのは二缶目・・・。
俺の醍醐味が減ってしまった!
「まぁてぇ!許さん!」
緑を追いかけて川の中へと入っていく。
そういえば、最初に出会ったのもこんな感じだったな。
一五年前のこの日、十歳の俺は爺さんと婆さんに頼まれて野菜を冷やしにこの川に来ていた。
そして今日の様に昼寝をしていたら、笊の中の胡瓜を全部食べられてしまったのだ。
それから毎年のように笊にいれた胡瓜の攻防戦が御盆の川辺で繰り広げられていったんだった。
思えば、あの時から気になっていたのかもしれない。
昔の事を思い出しながら深いところ、浅瀬へと追いかける。
流石河童と言ったところか深い川の中では敵わず、浅く水が少ないところで距離を詰めていく。
明らかに加減をしてくれているのが分かったので、後僅かまで迫ると大きく飛びかかり覆い被さる。
水飛沫が上がり浅瀬に押し倒す形となったがやっと彼女を捕まえる事が出来た。
だが俺は捕まえた後どうするかを考えてなかった。
本当は会って、野菜を食べながら話をして酒を飲みながらあれを渡そうと思っていたのだ。
それがこんな状態。
互いの顔が近くにあり次第に心拍数も上がり紅くなっていくのが分かる。
「ねぇ。捕まっちゃったよ?私、この後どうなるの?」
「あっ・・・。うっ・・・。」
どうしていいか分らずにとりあえず緑から離れようとするが、腕を伸ばされて引き寄せられ耳元で囁かれた。
「胡瓜食べちゃったお詫びに、私を食べていいよ。」
「えっ・・・?」
ぎょっとする言葉を聞き、返事をしようとすると。
「んぅ・・・っ。」
彼女が俺の口を自分の口で塞いできた。
「ねっ?食べて・・・。」
濡れそぼった唇を離しながら、懇願してくる緑の顔を見て俺の理性は脆く崩れていく。
追いかけま
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