「ふんっ!」
「せりゃ!」
鋭い二つの刃が獲物を斬り裂き、生々しいものが地面に落ちていく。
「しかし、こいつらどこまで生えてるんだ?」
蔦をうねらせながら襲いかかる機会を窺う無数の触手達。
「かなり広大に生息してるな。当分は抜け出せないぞ。この先にあると思うんだが・・・。」
「わからないのか?」
「現状の具合だとまだよくわからないな。」
今俺達はアグノスの大森林を進んでいる。
古地図を見たり、長く生きてる人間や魔物娘達の話を聞いてここに来たわけだが。
聞いていたものより触手が大森林を侵食しているようだ。
広く視界に入る触手に覆われてる状態で道を作ることすら困難な状況、火で焼きつくすにも他に被害が出そうでかといって一本一本斬っていくわけにもいかない。
そこで俺は斬撃を飛ばして大雑把に広く刈り取って通路を作り、道すがら潜んでいたものをスパスィと斬り裂いていく。
「で、私と旦那様で道を切り開いてる最中に二人は何をしてるんだ?」
彼女の言葉で視線を下に向けると、斬り落とされてのたうちまわっている触手を捕まえて何か作業をしている。
アルヒミアが切断されたものの尾部から刃を入れて先端まで裂き、皮を剥がす。
その皮は巻かれてポシェットに中に入れられて、中身はルヴィニに渡され彼女は次の触手を裂きにかかる。
ルヴィニはアルヒミアから渡された中身を搾汁機の様なものに入れ、力を加えて搾り出してとれた液体を瓶の中へと入れていく。
「それはね、素材集め。」
「触手の皮は鞣せば滑り止めに使われるし、細く裂いて編み直せば弓の弦や服の繊維になるの。」
「それと体液のままだと。び、媚薬になるし乾燥させて粉末にして他の樹液に混ぜると強力な接着剤にもなるんだ。」
話しながらも作業をこなす二人を見て感嘆の声がでる。
「なるほど、用途が多いのか。勉強になるなっ・・・。とっ!」
隙だらけの二人目がけて伸びてきた触手を斬り、安全を確保しつつ道作りに戻る。
昔行った世界では昆虫が集めた体液を接着剤にしたり、その体液を煮詰めて素材にした事を思い出し懐かしみながら通路を作っていった。
日は落ちて夜となり、更に生き物は寝ているであろう時間帯。
俺達はまだ触手の群れの中にいる。
「エル・・・。まだ抜けないの?」
「うぅ・・・。エルさん、眠いよ。」
「もう少しだから二人とも辛抱してくれ。」
昼過ぎからこの中に入ってずっと神経が張った状態では肉体も精神も参ってしまうだろう。
だが、こんな場所で休憩をしていては休まるものも休まらない。
早く抜け出すために進む速度を上げていく。
幸い明かりを得るために灯した松明の炎を触手が嫌がって積極的に襲ってくることはなくなった。
その代わり足元への注意を払わなければ地表から忍び寄ってくる輩が現れる。
油断できない奴らだ。
その後、ようやく触手の森を抜けた俺達は大きな湖に辿り着いた。
「ふぅ・・・。なんとか切り抜けたか。今日はここで野宿かな。」
「旦那様そろそろ降ろしていいか?いくらアルヒミアでも荷物付きだと重いんだが・・・。」
アルヒミアと二人分の荷物をもったスパスィが少し苦しそうにこちらを見る。
「こっちもルヴィニと二人分の荷物を持ってるんだ。もう少し我慢してくれ。今周囲を調べるから。」
「わかった。」
目を閉じてゆっくりと風が、流れが八方へと広がっていく様子を想像して力を想像へと込めていく。
身体の周りに風が少しづつ巻き起こり始め渦巻いていき、そして八方へと流れていった。
「風が旦那様から流れて出していたようだったが、なんだったんだ?」
「これは風の流れ方で物の位置、大きさなどを知る事の出来る特技さ。」
「便利なものだな。それで何がわかった?」
「とりあえず、触手の森からかなり離れたことと、動物が数百匹、魔物娘が単独行動してるのが五十名、集団行動しているのが七十八名、集落らしき場所が一つと広い場所が一つ・・・。周囲には危険なものはないぐらいだな。」
「なるほど。で、ここで野宿するのか?」
「ああ、流石に二人とも寝ている状態で何かに襲われたら負担が大きいからな。スパスィは最初に休んでくれ、俺が見張っておくから。」
「いいのか?先に休んでも。」
「構わない。日が昇り始めれば二人とも目を覚ますだろう。その後休まさせてもらうさ。」
「わかった。」
俺とスパスィはルヴィニとアルヒミアを降ろして、簡易天幕を張り彼女達を中へと寝かせると火を熾し野宿出来る環境を整えていく。
「では旦那様。先に休まさせてもらうよ。」
「うん、見張りは任せておけ。」
全てを終えてスパスィも天幕の
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