バニップ、レイ? バニッ、プレイ?

 昼間は日差しの温かいポカポカ陽気、しかし夜はまだ肌寒い。
 そんな夕方マイは一風変わった寝袋を段ボールから取り出した。

「じゃーん、ラミア属の為に作られたバニップ印のふわふわ寝袋!」

 バニップ、それはラミア属でありながら鱗ではなく体毛に覆われた種族。
 カザミには聞きなれない名前らしく頭に?マークを浮かべながら寝袋を見つめている。

「えと、バニップというのはラミアの一種で」

 そう言いながらマイは魔物娘図鑑を開き必死になってバニップの項目を探す。

「私みたいにすべすべの鱗じゃなくて あ、あったあった」
「へぇ、これがバニップなんだ」

 初めて見るバニップの項目、早速カザミは読み上げてみた。

「生息地は川や湖などの水辺、白蛇と被ってる気がするけど?」
「今はその本の時代じゃないし私達もバニップも普通に人間と同じように暮らしてるからね」

 そりゃそうかとカザミは納得する。

「それにしてもこの寝袋手触りいいね」

 サワサワと軽く寝袋を撫でるカザミ、しかしふと疑問が浮かんだ。

「この寝袋ってバニップの体毛使ってたりする?」

 その言葉を聞きマイは慌てて否定した。

「いやいや作り物! フェイクファー!!」
「確かに本物だったら色々ヤバイもんね」

 そんなやり取りをしながら二人で図鑑を眺める。

「『抜群の巻かれ心地』かぁ、確かに他のラミア属ではできないよね」
「じゃぁ私がやってあげようか?」

 どうやらマイにとって面白い反応では無かったらしく口を少し尖らせて言い放った。

「白い鱗で?」
「ううん、その寝袋で」

 そう言うとマイは寝袋を広げ蛇体を中に滑り込ませてゆく。
 どうやら寝袋を身にまとった状態でカザミに巻き付こうとしているようだ。
 そんな事を想像してカザミは気持ちが高鳴る、しかし何故かマイは寝袋に包まれた状態から動こうとしない。
 焦らしプレイ? そう思いながらカザミはマイの頬に触れようとする。

「ひゃっ!」

 頬に触れた瞬間マイの体が跳ねた。
 先ほどから様子がおかしい、そう思ってマイを見つめるが彼女もカザミを見つめたまま時間だけが過ぎる。
 そんな沈黙状態の中マイは唐突にカザミへと飛び掛かった。

「え、えっ ちょっとマイさん!?」

 豹変してしまったかのような素振りのマイ、その様子にカザミはある事を思い出した。

(これはまさかバニップの習性?)

 しかし気づいた時には既に手遅れ、カザミの体は寝袋によって『抜群の巻かれ心地』が絶え間なく刷り込まれる。
 同時にカザミを大きなぬいぐるみであるかのようにしっかりと、そして優しく抱きしめた。

「うう、マイさんごめん……」

 そしてカザミはその心地よさに負けてしまい襲い掛かる強烈な眠気を受け入れてしまった。


「カザミ君…… ごめん!」

 カザミが目を覚ましたのはあれから数時間後、外は既に暗くなっている。

「んあー…… マイさん何で謝ってるの?」
「その、さっきのこと思い出したら恥ずかしくなっちゃって」

 確かに白い色素の顔の中にほんのりとした赤みが見え隠れ。

「大丈夫、気持ちよく眠れて結果オーライだよ」

 そうカザミはマイをフォローするが彼女はやはり顔を赤くしたまま寝袋の説明書をカザミに渡す。

「ふむふむ『本商品はバニップの体毛を模して作られた寝袋です、注意事項として人間男性のそばで着用するとバニップのような性格になってしまいます』」

 つまりマイは寝袋に込められた魔力か何かで性格を一時的に書き換えられていたという事だった。
 今は寝袋を脱ぎいつもの性格に戻っている。

「あー、だからさっきは色々変な感じだったのか」
「自意識はあったんだけど……」

 両手の人差し指をツンツンとしながらボソリと言葉を漏らす。

「ならマイさんの魔力で寝袋の効果消せないかな?」

 うつむくマイにカザミは提案してみた。
 実際マイは強力な水の魔力をその身に宿している。

「うん、やってみよう!」

 そうして風呂場にて。
 まず浴槽にマイの魔力で作られた水を張ってからの丸洗い。
 共同作業とはいいものだと二人そろって思いながら仲良く寝袋をゴシゴシ。
 二人の手が解呪用の粉石けんと合わさり瞬く間に泡だらけになる。

「うん、いい感じになりそう」
「おお、それはよかった」

 ご機嫌なマイの様子を見てカザミも自然と笑顔になった。
 最後に寝袋をパタパタとして水分を飛ばす。

「本当ならお日様に当てたいけど今回は部屋干しでいいわよね」
「そうだね、明日には乾いていると思うよ」

 バニップの体毛は水分を弾きやすいのだろうか、既にふわふわした手触りが戻っていた。



 そして翌朝、学校のホームルーム前。

「おっはようマイちゃんカザみょん
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