「よくぞ参られた地上のお方。私がこの竜宮城の主、乙姫水希と申します」
「はい…?」
目の前の美しい女性はそう丁寧なしぐさでお辞儀をした。纏う着物は地上の物とは思えぬ素材で仕立てられており、頭の角やへその下は龍のようなうろこでおおわれていた。
そして、何よりもその大きな胸「ちょっと、あんた!こっちが挨拶してるんだから名乗りくらいしなさいよ!」
「は…」
水希さんはさっきの威厳はどこへやら、どこぞのわがまま娘のように腕を組んで大きな胸をはっている。
「銀太郎です…」
「あ、そ。後あんた頭が高い。あんたが目の前にしているのは海の魔物娘の姫よ!もっと私を敬いなさい」
「ええ……」
そもそも俺がなぜこの竜宮城へ来たかと言うと、友達がこの竜宮城で生活している魔物娘と結婚して、俺も御呼ばれしたからだ。あまり主人の不興を買っても悪いので軽く頭を下げておく。
「ちょっとあんた!なにそんなとこでつ立ってんの!さっさと準備を手伝いなさい!」
なんと頭を下げろと言った本人は既に宴会芸の準備をしていた。なんと勝手な女…もとい魔物娘だろうか。結局俺も準備を手伝わされることになったのは言うまでもない。
「皆さん、今回は御集り頂き、ありがとうございます!今日はこの二人の結婚を私も祝い」
宴会の席で楽し気に芸を披露する水希を見ながら、俺も目の前の御馳走を口に運ぶ
。美しい魔物娘さんたちも大勢来ているのだが持ち前の女性に対するあがり症で緊張してしまい見て食うだけしかしていない。
やがて俺は勧められるまま酒を飲んでいく。
ふと庭を見ると、様々な見たことがない綺麗な花が咲き誇っている。そう言えばそろそろ紅葉が綺麗になる頃か…と思うと、視界がぐるぐる回転していく。声もだんだんと遠く…
「気が付いた?」
目をうっすらとあけると、水希が顔を除いていた。タツノオトシゴのような下半身で膝枕してくれているらしく、頭を載せる部分は布が敷かれてあった。
「あれ……俺」
「私が準備のお礼にすごい芸を見せてあげようとしたのに銀太郎ってば寝てるんだからさあ」
呆れたように言う水希。いつの間にか銀太郎と呼び捨てになっている。一応準備を手伝ったことに対しては感謝の念を抱いていたようだ。
「ありがとう、水希」
「様をつけなさいよ様を。あんたって本当に無礼ね」
起きたんならさっさと頭どかしなさいよ、おもいんだから。そう言ってふいと顔をそむけてしまう。
「女の子……」
「ん?」
「お気に召す娘はいなかったの?」
「酔っぱらってて…」
嘘ではなかったが、元々女性に対して積極的に口説くことはできないでいたのだ。もしかしたら魔物娘にお持ち帰りされたかもしれないが、今回来た魔物娘たちはみな遠慮がちであったようだ。
もちろん俺にもプライドがあるのでそんなことは言わないが。
「あ、そ」
水希は端正な顔を難しげに歪めて何やら考え事をしていた。そして、ポンと手を叩く。
「それなら、あんたの相手が決まるまで私が面倒みてあげるわ!」
「は……?」
俺が呆れた声を出すが、水希は満面の笑顔で何度もうなずく。
「大丈夫、この水希に任せなさい!」
こうして俺はこの強引な乙姫と暮らすことになった。相変わらず水希は御姫様らしくないけど、毎日退屈はしていない。
それにしても最近水希がちらちらとこちらを見てくるのは、どうしたんだろう? ここで働いている海和尚さんたちに聞いたらおもっきしため息をつかれたけど。
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