*間話1" 何でもない日のこと

「暑い……」

もう何度この言葉をつぶやいただろう。
太陽が照り付けるコンクリートの建物の間を歩く少女。
隣には、背の高い青年がエスコートをするように車道側を歩いている。
ダウマーは和人と一緒に街へ向かっていた。
なんでも「お礼」をしたいのだそうだ。

「別に、お礼なんて」
「もちろん探すのを手伝ってくれたインゲちゃんやアンナちゃん、
後君にお金を貸してくれたらしい上岡?って人にもね」
「別に最後の人は私からお礼を言っておいたからいらないんじゃない?
あとアンナにお礼を言う必要はないわよ」
「はは、中いいんだね」
「どこが」

お礼をしてくれると言うのなら前みたいに料理を振る舞ってくれたらいいのに。
せっかくの気持ちを否定するつもりはないが一緒にいれるのならば家の方がいい。
和人を探しに行った時は必至で気づかなかったがこんなに大勢で繁華街をあるいて
平気なのだろうか。

魔界なら魔物たちは頑丈だしまだわかるのだけれど。

「もちろん君の御両親、フレゼリクさんとマリーさんにも直接顔を合わせたいしね、
だから僕がご飯を作りに行ってもいいんだけど、今日は君と一緒に食べに行きたい
んだ、二人だけで」
「急に何なの、そんなこと誰も聞いてないわよ」

びくりと体を震わせる。
和人は心が読めるの?と馬鹿な質問をしそうになるが勿論そんなわけがない。
顔に出ていたのだろうか。

「さあね。僕がそう思いたかったのかもしれない。ダウマーが外食よりも「僕の料理
が食べたい」と思っているってね」
「あんたそんなキャラだったっけ?」

まるで無自覚に口説かれているかのようだ。
和人はあの日会いに行った日からなんだか自分への態度がフランクになった気がする。

「私も、和人にもっと親しんでもらいたいと思ったのかしらね」

小さく呟く。今の言葉は絶対に聞かれてはいけない言葉だったがつい口から洩れてしまっ
た。あはは、となぜか笑い声も漏れてきた。

「どうしたんだダウマー、そんなに笑って。本当は食事楽しみにしていたのか?」
「ばか。楽しみにしているのはアンタでしょ?さっさと連れてってよ、ただでさえ暑い
んだから」

それを聞いた和人はそうだね、ごめんと言って頭をかいた。
正直このまま外でじっとしているといくら魔物娘だとしても熱中症で倒れてしまいそうだ。
人間たちの弱い身体ではなおさらだろう。
聞いた話によれば、日本へ向かったドワーフ達の中には気候の問題で行くのを躊躇するも
のもいたらしいというのも納得だ。

歩きながらまわりを見渡すと、様々な年齢層の人々が歩いている。
皆暑そうにしているが、表情は様々だ。
中には、恋人同士なのか中難しく手をつなぐ男女や家族もいる。

赤ちゃんを抱えた夫婦を見た時、ダウマーの心がどきりとした。
もし、自分が隣にいる和人と結ばれたらあんな風に家族で歩くこともあるのだろうか。

「…マー。ダウマー。立ち止まったりしてどうしたの?足が痛いとか?」
「そうね、私も赤ちゃんができたら家族ができたりするのかなって」
「え?」

振り向く。
ダウマーは自分の言ったことに和人の顔を見るまで気づいていなかった。
桐谷はぽかんとした顔で顔を真っ赤にする。
ようやくダウマーは自分の言ったことに気づき彼女も真っ赤にする。

「ち、違うから!そう言うことを言っているんじゃないからね!違うから!」

初夏の町で、ダウマーの声が響くのであった。
2人の体温はまだまだ上がっていきそうだ。








19/06/17 01:07更新 / カイント
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