ダウマーは窓から差し込む光をかんじ、ゆっくりとまぶたを開ける。
ベッドからのそのそと出ると、洗面所へと向かった。
顔を洗いながら、ふとエメラルド色の瞳は眠たげに鏡を見る。
緑色の目。ピンクオレンジの髪の毛。
見なれたムッツリ気味な自分の顔も機嫌がよさそうに見えた。
部屋に戻れば、その理由もはっきりとしていた。
机の上の魔界銀、そして長年愛用している工具が日差しに照らされて誇らしげだ。
そう、教授から禁止されていた銀細工いじりを再開することが許されたのだ。
あの日、作った包丁を教授に見せた後、合格祝いにダウマーの家に集まっていた。
合格を祝ってダウマー、インゲ、桐谷、教授の四人で桐谷の作ったご飯を食べていた。
教授がかつ丼を口に運びながらダウマーには銀細工を触ることの許可を、インゲには授業の点数
を加算することを静かに伝えたのだ。
もちろんうれしいが上機嫌な感じを隠そうとしない教授の姿が妙に印象に残っていた。
ダウマーは深々と頭を下げ、インゲは満面の笑みで喜んだのだった。
桐谷も喜んでくれ、「かつ丼を作ったかいがあったね」と笑った。
結果的とはいえ桐谷がきっかけなのに、彼は少しもえらそうにふるまったり恩を着せるような態度
をとることはなかった。
ダウマーやインゲお金も含めて何かお返ししようか?と聞いても、
「包丁を作ってくれただけで十分さ」
ギブ&テイクだよと、言うのだった。
その時の顔にやや影があったのも気になったが、なぜ桐谷はここまでしてくれるのだろう。
問いかけても、青年は笑みをうかべて答えなかった。
彼は家に帰ったあとも料理を作っているのだろうか?
まあ、今は考えても仕方がない。
彼は彼の、自分は自分のことを薦めなくてはならないだろう。
それに包丁を作った時の魔力の輝きも気になっていた。
「そう言えば、インスタント食品もそろそろなくなりそうね」
もっとも、今日は母が帰ってくるのでいつまでも銀細工を触ってるわけにはいかない。
というのも、母が久々に帰ってくるのだ。
食事に全くきょーみないダウマーも母のために料理を作ろうと少しは思っているのだった。
とは言えろくに食べれるものをつくったことがないので何とかしなくてはならないが。
エプロンを着けて、台所に立つ。
前包丁を触ったので、一応使い方は以前よりは手慣れている。
が、料理は予想以上に強敵だった。
「もう少しまな板は大事に扱わないとね…」
力を入れ過ぎてまな板を真っ二つにしてしまった。
自分用に朝作ったまな板なので別にいいのだが、力加減が全くできていない。
じゃがいもの一つはむき過ぎてどれが皮でどれが身なのかわからない。
あきらめてじゃがバターにするのだが、結局できたのはぐじゃぐじゃになったじゃがとバターが混
ざったマシュポテトみたいなもの、だった。
「……大量のジャガイモ、買っておいてよかったけど……」
無残な姿になった大地のリンゴを半分残して冷蔵庫に入れておく。
結局自分に料理は早すぎたのだ。いつならいいのかはおいておく。
さてご飯は出前にするかインスタントにするか、うーんと考え事をしていると、エルフのもよりか
は小さな三角の耳がフルフルと動く。
少し遅れて呼び鈴が鳴った。
噂をしたから母が帰ってきたのだろうか。それともインゲだろうか?
そう思いながらとてとてと階段を下りて、ドアを開ける。
「どうしたの、早いわね?」
「うーん、そうかな?途中で道に迷いそうになったけど」
「え、あんたどうしてここに?」
ドアの先にいたのは、桐谷青年だった。
心なしか、前来た時よりも妙な落ち着きがある。
腰をかがめて彼女の目線に合わせたつもりのようだが、背の高さが災いして頭一つ分くらいずれて
いた。
街へ帰ったはずの彼がなぜここにいるのだろう、
まさか帰っておらずこの村をずっとぶらぶらしていたのだろうか。
「まだ用事があるの?」
ダウマーは何が何だかわからないと首をひねる。
彼女にとってみれば不本意だが、そんなしぐさもかわいらしさを引き立てているのだが彼女は気付
いていなかった
綺麗なピンクオレンジの髪も一緒に首をかしげているようで、桐谷も気づかれないように微笑む。
「約束しただろ、お礼にご飯を作るってさ。
この自分だけの包丁で手をふるいたくてしょうがないんだ」
「そりゃ、言ってたけど」
それはかつ丼で作ってくれたことで約束は果たされたのではないか。
口にこそしてないものの、ダウマーの顔がありありと語っている。
「そんなこと」のためにわざわざ料理を作りに遠い道のりで村に来る、理解できないがその根性は
すごいねと素直に褒めたくなってしまった。
もし彼の料理を母に食べさせればさぞかし喜ぶだろう。
しかし、だ。
母が知り合いの男の子に料理を作らせたと知れば
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