「あんた、まだいたの?」
「ああ、うん。ちょっとね」
べつに彼を追い出したいわけではない。
思ったことが思わず口から飛び出しただけである。
ランニングを終えて戻って来たダウマーの目に飛び込んできたのは、さっきの男性。
ダウマーが見たところ、さっき立っていたところから一歩も動いていない。ゾウのよう
な男ではなく、石像のような男だったか。
そんな近所のおじさんから教えてもらったさむーいダジャレを思い出した。
男はこちらのぶしつけな態度には構わず、腰をかがめてダウマーの目線に合わせる。
男は子供も安心しそうなくらい柔らかな笑みを浮かべた。
「自己紹介がまだだったね。俺の名前は桐谷和人。よろしくな」
「どうも。ダウマー・スミトよ」
「走るのが好きなのかい?」
「そんなところ。で、なんでそんなところに突っ立っているのよ」
「いや、大したことじゃないんだ。でも、少し怪しかったかな?」
はっきり言ってものすごく怪しい。不審者一歩手前だ。
景色に見惚れていたのだろうか、と思ったが彼はそんなタイプには見えない。
昔近所の人から聞いた話によれば、初めて魔物の集落へ訪れる人々はを物珍しそうに写
真をとったりあちこち見てまわるそうだ。
交通の便が悪いこの村もひと時は物珍しさから観光に来た人も多かったそうだ。もっと
も、外人間が来るとすぐにわかるので観光地になりそこなったようである。
さて、桐谷青年の答えは。
「実は、道に迷って……」
「それでここでじっとしていたと?」
「ああ」
「あなた、変な人って言われたことない?」
「実はよく言われるんだ」
彼は照れてるのか、頬をかきながら言った。思わずあきれ顔でため息をつく。
このまま外でじっとしていれば風邪をひいてしまうかもしれない。
面倒だが、もう少しだけ面倒を見ることにした。
「あんた、寒くないの?」
「ちょっと寒いかな?そういう君はあまり寒そうには見えないけど」
「体質よ」
両親を含め北国生まれのドワーフの住民がほとんどを占める村人たちにとってみればこ
の国の冬はさして辛いものではない。
新しくこの村にすんだ人々も大体の家は暖房が効いているので寒くなればすぐに家に戻
れば平気なのだ。
「少し行った酒屋兼カフェがあるわ。
そこであったまっていけば?丁度お昼頃だし」
「そうそう、料理だよ!」
ダウマーはびっくりした顔で桐谷を見る。
「料理道具を作ってくれるところを探しているんだ。
マスターからハンドメイドの道具を頼むにはドワーフがいいって聞いたらさ」
「ふーん、あんた料理人なの?」
「いいや。料理を作るのが好きなだけさ」
桐谷青年は嬉しそうに言う。
みんなお昼を食べてる頃だったな、とダウマーは思っただけだった。
さして料理に興味はないのでふーんと枯れ木のように冷めた反応で返す。
それよりも興味を持ったのは、彼がドワーフがつくった道具が欲しいと言った点だ。
それも、この村の技術力が評価されたと聞けばダウマーも悪い気はしない。
何よりも尊敬している人の名声を思うとさらに誇らしい気分になる。
ズキリとしたのは、気のせいだと思いたい。
「________」
「大丈夫?傷が痛むの?」
「え?」
「今つらそうな顔をしていたよ?」
「、別に平気よ」
桐谷が心配そうに腰をかがめてダウマーに視線を合わせていた。
何故だか彼の黒褐色の目を見て心が落ちついてきた。顔をじっと見られた恥ずかしさで
思わず目をそらす。
彼女は一息つくと、ふとした疑問をかれにぶつけてみる。
「予算とか、お金は大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
「すごく高いのに?あんたお金持ちなの?」
「えっそうなの?」
思った通りこの青年は良くわかってないまま注文しようしているようだ。
都会の人間にとってあらゆる物は簡単に手に入るのは当たり前だという噂は本当らしい。
「職人の作るものは特に値段が高めよ?
ドワーフはここじゃ数が少ないんだから。じんけんひ?っていうの」
「えっと、どれくらいするんだい?」
「数十万くらいかしら?」
「そんなにするのか……」
青年は驚いた顔をしているが、いい商品を作るには素材もそれ相応のものが必要になっ
てくる。
ドワーフよりも数が少ないサイクロプスなどに仕事を頼むと値段が恐ろしいことになる
らしい。
「後、ハンドメイドなら予約が必要よ。
この時期みんな忙しいから結構待つことになると思うけど」
レパートリーの多い器用なドワーフもいれば、得意な物一つしか作らないというドワー
フもいる。
商売のやり方はバラバラなので行けば必ず仕事を受けてくれるとは限らないのだ。
商売なれしているドワーフはひっぱりだこだし、頑固なドワーフは仕事のえり好みが激
しいことが多い。
「あー、そっか。すぐに手に入るわけが
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