春の日差しは、どこまでも暖かかった。
ポカポカ陽気で、暑すぎもせず、寒すぎることはない丁度良い気候。
散歩するにはぴったりの日だ。
市民の憩いの場である公園は人でにぎわっていた。
ピクニック、ランニング、野鳥を観察する人々。
それぞれ思い思いの休日を過ごしていた。
「んんー、いい天気」
走っていた少女が足を止め、小柄な体をゆっくりと引き延ばした。
腰の長さまでピンクオレンジの髪が太陽に照らされてキラキラと光っていた。
髪の毛からはちょこんとした三角の耳がでていた。
ふと、彼女が足元に目をやると、黄色い花がいくつも咲いていた。
その花を見ていると、思わず笑みがこぼれそうになる。
腰を下ろして花をちょこんとさわった。
「おや、散歩かい?」
少女が振り向く。
声をかけてきたのは、スポーツマンのような好青年。
絵に描いたようなさわやかな笑顔にランニングウェアが良く似合っている。
「ああ、急にごめんよ。俺は水木。このあたりをよく走っているんだ。」
「こんにちは、ダウマーです。今日は家族でこの公園に来たんです」
ダウマーがぺこりとお辞儀をする。
礼儀正しいが、ぺこりという仕草が似合いそうで水木も微笑む。
ダウマーのエメラルドの色のキラキラした瞳に水木姿が鏡のように映っていた。
「それは羨ましいな。俺の妻と子はあんまり散歩に来ないんだ」
「あははは」
今は二人とも買い物に行ってるよ、俺をおいてと苦笑しながら水木は答えた。
二人はすっかり打ち解けて笑顔で語り合っていた。と、誰かが近づいてくる。
ダウマーとよく似たピンクオレンジの髪の少年だ。
その後ろにはダウマーと似た可愛らしい顔立ちの少女が隠れている。
少年の後ろで大事そうにぬいぐるみを抱えながら水木をおそるおそるのぞいている。
「もー、やっとおいついた。お母さんはやいよお」
「……」
「ああ、ごめんごめん。こんないい天気には走りたくなるじゃない?」
ダウマーはあはは、と笑って答える。
お母さん?とつぶやいたきり水木は石を飲み込んだようにだまる。
「え?お母さん」
「ああ、水木さん。紹介します。娘と息子です」
「ああ…ず、ずいぶん若い奥様ですね」
「あはは、ありがと。水木さんは口がうまいね」
頭を下げる二人に、口を大きく開けて驚く水木。ダウマーはニコニコと眺めた。
改めてよろしく、と手を差し出すダウマーの薬指には春の日差しできらりと光る指輪がはめられていた。
「もー、お母さんまたわかづくりしたの?」
「そんなわけないでしょ。ドワーフが子供と間違われるのは良くあることなのよ。あんたも大人になればわかるわ」
「……」
ダウマーはタンポポを見ながらそう答えた。ダウマーの息子と娘はお互いに顔を見合わせた後、タンポポを見る。
「これがたんぽぽ?おとうさんとおかあさんの?」
「……思い出の花」
「そうだよ。あの頃はあたしも今みたいには作れなかったのよね」
ダウマーの言葉に、二人は驚いた顔をする。
ダウマーはそんな子供たちの顔を見て微笑むと、目を閉じて昔話をするように語り始めた。
「知ってる?タンポポの花言葉はね」
*****
その部屋は、工房にも研究室のようにも見えた。良く整頓されているが、生活感がない。
そんな部屋の中では緊迫した空気がただよっていた。
ひんやりとした研究室二人のドワーフが机をはさんで向かい合っている。
机の上には、タンポポの模様が刻まれた指輪が置かれていた。
ピンクオレンジの髪の少女…ダウマーが緊張し、固い顔で見つめていた。
じっと見られている方のドワーフのモノクルがきらりと光った。
「ダウマー、落ち着いて聞きなさい」
口を開いたのは、椅子に座っている白衣をドワーフだ。
顔つきは笑えばとても可愛いらしいけど浮かぶ表情はまるで夜の森のようだ。
レンズの先の目は加工された金属のように無駄がなく、見る人に緊張を強いる。
「君にはまだ合格点をやることは出来ない」
「そんな、教授……!」
「教授」の言葉に、ダウマーはがっくりと肩をおとす。
教授は肩を落とすダウマーから表情を変えず続ける。たしかに、と教授は言った。
「君の作品は租、というものがない。例えばここ_タンポポの細かい花弁一つ一つ、丁寧に模倣できている。技術面で見れば満点だろう」
「ゆえに、君に合格点をやることは出来ないのだ」
「どうして、なぜなんですか…! 」
ダウマーはその幼くやわらかな顔を険しくする。顔に浮かぶのは怒り…ではなかった。
憧れの人に認められようと必死な…そんな顔だった。
対する教授はレンズごしの目は夜の森のように表情が見えない。
「魔界銀というものがどのような金属か、授業で教えたことは覚えているかな?」
「忘れていません!今でもきちんと説明することができます」
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