爛れ

 不意に感じた下半身の解放感と、何かがのしかかる重みで衛治は目を覚ました。未だに重たい瞼を擦りながら下半身に目を向ける。そこにいる重みの主は、一年程前から彼の部屋に居座り始めた同居人であり、同じ大学に通う学友、そして恋人でもある真宵(まよい)だ。
 スウェットのズボンと下着を脱がされ、昨夜の余韻が残る朝勃ちした肉棒が曝け出される。真宵は肉棒を咥えると、もどかしい程にゆっくりとした抽送を始めた。真宵の唇が、口蓋が、舌が、衛治の肉棒を苛む。熱く、緩い快感に脳を蕩けさせながら、衛治は時計を見た。土曜日の午前10時過ぎ。
 ごく僅かな痛みが肉棒に走った。下半身に視線を戻すと、真宵がこちらを不満気に睨み付けている。
「ごめんね」
 そう謝りながら真宵の後頭部に手を乗せると、緩やかな抽送が再開された。今日は大学の講義や他の用事がある訳でもない。衛治はその快感を耐えることなく受け入れた。少しづつ、少しづつ高まっていく射精感に、自然と彼女の後頭部を抑える手に力が入る。衛治の限界が近いと分かった真宵は、そうと分かっていながら抽送の速度を上げなかった。むしろ、頭を押さえる手を優しく退けながら、時に咥えた口を離して竿を舐め上げたり、鈴口へ細く熱い息を吹き掛けたりさえした。今にも限界が近い肉棒は、なんの事もない刺激で果てそうなものだ。しかし、どういう訳か衛治は真宵の中か手足による行為でしか果てることが出来なかった。ともすれば加虐的にもとれる遅々とした口婬を衛治はただ受け入れている。これは彼女と交わした約束なのだ。
 衛治と真宵が通う大学は所謂、人妖共学のものだ。いつの間にか居座っていた真宵も何かしらの妖怪なのだと衛治は知りながら、精の摂取は口婬のみとし、まぐわう時にはコンドームを付けることを約束させた。それは、安くない学費を捻出してくれている両親への誠意であり、次々と消えていく同期達のなか、自分は必ず卒業するのだという小さな矜持の現れ。真宵はこれを快く受け入れたが、彼女も約束を交わさせた。一つ、毎朝の口婬を受け入れること。一つ、いついかなる時も求めに応じ、まぐわうこと。爛れきった性生活の中に残された、0.01ミリメートルの良心。いつ破れるとも分からない薄氷の上に、2人の暮らしはある。
 枝にまとわる蛇の如く肉棒に絡み付く真宵の舌。その舌先が裏筋を、カリ首をちろちろと舐め上げる。
「お願いします、いかせて下さい」
 涙交じりの懇願を受け、真宵は抽送を速めた。強く窄められた唇と熱く柔らかな舌が肉棒を扱き、絶頂へと誘う。真宵は口内の奥に吐き出された精液に一瞬顔を顰めるが、それは一瞬で恍惚としたものに変わった。咥えたままの肉棒へ精液を塗り付け、なおもしゃぶりつく。真宵の唾液と衛治の精液とが混ざった潤滑液が舌の動きをより滑らかにする。過敏な亀頭を舌先が撫でると、衛治は再びの絶頂に至った。
 真宵は唇を窄めたまま肉棒を口内から引き抜き、尿道に残る僅かな精液も残すまいと鈴口を吸い上げる。口内へ溜まった精液を艶めかしい動きで舌が掻き集め、飴玉を与えられた子供がするように舌で転がし、至上の甘露であるかのようにゆっくり嚥下した。
「ご馳走様」
 見せつけるように開かれた口内に精液は残っておらず、滑る唾液のてかりが口内の赤を際立たせている。
 衛治はぴりぴりとした気怠い腰の疲れに任せ、このまま二度寝をしたいところであった。しかし、空腹がそれを許さない。怠い体に喝を入れて立ち上がり、下着とズボンを履き直す。
 窓を開けてすえた空気を追い出しにかかるが、代わりに入ってくるのは温まり始めた外気だった。それでも何もしないよりは幾分ましであると、衛治は深呼吸を一つする。
「朝ご飯にしましょうか」

 遅い朝食の支度をしながら、衛治は真宵を見た。開け放たれた窓の枠にもたれる真宵は、物憂げな表情で煙管を燻らせている。飾り気の無い黒色のタンクトップと、それを持ち上げる豊満ながら張りのある乳房。タンクトップの隙間から垣間見える刺青。少しばかりハーフショーツが食い込んだ丸い臀部と、そこから伸びる足先への緩やかな曲線美。
 真宵がこの部屋に居座り始めたのはいつからだっただろうか。去年の春頃だった気もするし、それよりも前だったかもしれない。それまで特に接点も無く過ごしていたのだが、ある日を境に歯ブラシが置かれ、衣服も置かれた。ベッドは狭いまま、枕が二つに増えた。真宵の好きな日本酒の銘柄が冷蔵庫に常備され、料理の味付けは彼女好みのものになった。いつの間にか真宵は衛治の全てになっていた。居て当たり前の存在、真宵。大事な存在なはずなのに、出会いの記憶は曖昧なままだ。
「よし、完成」
 そんなもやもやとした気持ちを振り払い、出来上がった料理をそれぞれの席へ配膳する。真宵はいつの間にか席に着いていて、衛治
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