太陽がとろけた。黒く溶けた。

――…あれぇ…?ここは…どこぉ?――

長い長い微睡みから醒めた気がした。
周囲は鬱蒼とした木々が生い茂る森の中心。
そこに、裸の少女が存在していた。

「…ぅん?」

長く寝ていたような感覚がする頭では、"彼女"は何も考えきれないようで
小首を傾げるばかり。
その瞬間だった。

ぐちゅ。

「んっひゃああああああああ!?」

自身の太腿に張り付く生暖かくぬめる何か。
その何かが与える感触は、沸騰したお湯につけた布のように、
痛みと熱さを伴いながら"彼女"の体に染み渡るように広がる。
その感覚に肌を粟立たせ、長い黒髪と、
普通の女性よりも少し大きめの…言うなればEカップくらいの胸を
揺らしながら、感覚を与えてくる源を探す。

…あった。自身の後ろに。
黒く黒く、粘つく液体を地面に生える草花にたらしながら、"彼女"の帰還を待つ淫魔の玉が
彼女が纏っていたであろう服の十字架をその液体まみれにした状態で。



――高位修道女、アルネス・モードアインが行方不明になった。

その知らせが、大陸北部の反魔物領、
聖村フィフティス、および周辺の街々に駐屯している兵士たちに通達されたのは、わずか半刻前。

アルネス・モードアインと言えば、18歳でありながら敬虔な主神の信者で、勇者になれなかったとは言えども
その聖なる魔力でサキュバスを追い払えるほどの力の持ち主である。
金色に輝くまっすぐな長髪と両目は、"戦えぬ民の守護者"と呼ばれるに相応しく、
年齢にしては大きな胸に、花咲くような美貌に浮かべる慈愛たっぷりの笑みは周囲に母性を感じさせるものであった。

もちろん、淫らなことを禁ずる教団のものであっても、彼女を恋慕の対象にする者は多く存在している。
そのため、行方不明になったという知らせが広まった瞬間に、捜索部隊が立ち上げられた。

その捜索部隊はそれぞれの駐屯地から放射線状に広がる。
見つからずとも、おそらくアルネスが居るだろう場所が浮かび上がった。

フィフティスの西50kmあたりに存在する、鬱蒼と茂った森。
―通称、"魔の森オプティ"。
木こりのオプティが住処であり仕事場にしていた森で、
数年前、そこからグリズリーが去る様子が見られた。
およそ50人、オプティが怪しいとにらんだ捜索隊が息をのむ。

彼らは勇者ではない。
だが、勇者ではない人間にわかるほどに、淫魔の魔力が漂っているのがわかる。

このまま放置すれば、ここの周囲数kmは魔界と化すだろう。

だが、そんな場所に、アルネスが居る可能性がある。

「……行こう!」

若い兵士の一人が声を出す。
集団心理とは恐ろしいもので、誰も意見を出さない状況で、それを打破しようと一人が意見を述べれば
その意見について行ってしまうのだ。

50人は、剣を抜いて魔の森に入っていった。


一方、少女の方は。

「…私…は…?」
おそらく修道女が着ていたであろう服を持ち上げ、記憶をたどっていたようだ。
球が触手を伸ばし、十字架を指す。
「………そう、やっぱり。」
死ぬ前の走馬燈のように、彼女の頭の中を記憶が駆ける。

「…。」
ばさり。ぬちゃり。

修道女の服を再び纏い、球体の上に腰を下ろす。
"彼女"は、気づいたようだ。

一つは、自分が化した魔物の種族を。

一つは、この森に潜む魔物たちが彼女を崇拝する対象と考え、集まってきたのを。

一つは、極上の餌が自らを差し出しに来たのを。

口角を上げ、魔物たちに聞こえるように話し出す。

「ねえねえ、みんな。
今ここに迫っている餌は、およそ50だと思うのだけれど。みんなはどう思うかしら?」

「……私は60だと思ったのだけど?」

あでやかな声が答える。

「わた、わ、私は40だと思いました!」

慌てて答える声。

それを皮切りに、口々に予想を述べる声たち。

"彼女"は、その声を一つ一つ数えて。

「…私を含めて、私たちは50居るわ。
向こうも、おそらく50。余ったら二人でも三人でも持って行けばいいじゃない?
足りなかったら…そうね、姉妹で仲良く犯しなさい?」

「でも、ダークマター様…。」

「私の分を残してくれれば、いいわよ。」

あでやかにほほえむと、"彼女"は前から来る者を待つ。

「…はぁ、は…っ!!ま、魔物だ!」

拓けたところにたどり着いたと思ったら、魔物がいたことに驚く兵士たち。
どうやら、彼らが纏う鎧には淫魔の魔力を軽減する効果があったようだ。

「…ファルティスの聖銀か…。」

忌々しそうに"彼女"がつぶやく。

「…!ちょっと待て、あそこに居るの、アルネス様じゃないのか?!」

一人が慌てた声を上げる。
「黒髪だが、アルネス様だ!」
次々に”彼女”の名前を口にする兵士たち。

そう、ダークマターの女性体は、アルネスだった。


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