海の中の空間

男は縛られていた。
しかしただ縛られているだけではない。
簀巻(すま)きにされて、まるで逃げ出さないために簀巻きにされている。

「・・・せ、船長あ、あの・・・こ、これはい、一体?」

「あん?決まってんだろ、おとりだお・と・り」

船長と呼ばれた大柄の男は笑いながら船員に出航準備をさせる。
まるで "自分を置いていく" かのように。

「悪いなグーゼス、お前はここでお別れだ」

船長の言葉に理解できなかった。
本当に自分を置いていく気なのがようやく理解するグーゼス。

「ちょ!ちょっと船長俺を置いて出航とか冗談・・・」

「冗談じゃねぇよ?グーゼス、お前はここで餌としてジ・エンドだ」

餌の意味がわからないグーゼスだったがここでようやく思い出す。
この "海域" の事を。

「はははようやく思い出したかグーゼス、そうこの海域は魔物海域だ」

船長が「帆を張れ」と指示を出すと、畳んでいた帆が風の力を借りてゆっくりと動き始める。
そしてそのまま最後の別れと船長がグーゼスに顔を出す。

「じゃあなぁグーゼス、お前との航海楽しかったぜぇ魔物に食われてもお前の事は3日くらい忘れないでやるよ」

がはははっと笑いながら船は行く。
本当に置き去りにされたと思い声が出ずに数分後ようやく我に返るグーゼス。

「ちょ・・・ちょっと、せ、船長!船長っ!!」

しかし我に返ったのが遅すぎたか船は小さくなってやがて夜の闇夜へと消えていくのであった。



あれから3日が経った。
魔物海域と呼ばれる海域に民間の船が通るはずがない。
しかし3日経っても魔物が自分を襲わないことにグーゼスは疑問に思っていた。

「く、くそぉ・・・誰もこの海域を通ろうとしない、それに魔物も俺を喰おうとしねぇ」

空腹に耐かねて、落ちない程度に体を起こし海を見つめる。
こんな事になるなら海賊なんてなるんじゃなかったとグーゼスは後悔していた。

「・・・い、いっそ海に落ちて死ぬか・・・その方が楽になりそうだ」

意を決し、なんとか海へと体を身を投げ出す。


簀巻きにされた状態で体が沈んでいく。


後悔はしていないどうせ自分は海の賊、海賊なのだから。


きっとこれは自分への天罰なのだ。


だから・・・このまま死んでも悔いはないと、ここでグーゼスの意識が途絶えた。





「・・・う、う・・・」

おかしいと思ったのは "息" ができることだった。
何故息ができるのか?自分は死んだはず、死んでこの世にいないはずだと思った。

「・・・ああ、ここが天国ってやつか・・・いや、地獄か?」

「いいえ、ここは天国でも地獄でもありません」

「はぁ?天国でも地獄でもないって、意味がわから・・・!?」

身を起こいて自分の体を触る。
簀巻きにされていたはずだがいつの間にかほどかれていたことに気づく。
そしてちゃんと空気を吸って吐くこともできる。

「お、俺・・・い、いき、生きてるのかぁぁっ」

本当は死ぬが怖かったグーゼスは嬉しさのあまり涙が溢れる。
そして自分を助けたのは優しい女性なのだろうか、だったらちゃんとお礼を言わないと思い決意する。
腕で涙を拭いて、涙を見せないようにして相手を見ようとした。

「な、なぁあ、あんたが俺を助けて・・・」

そのまま、ありがとうと言おうとした。
しかしそれ以上にその女性の姿に口が開いてしまう。

「?どうかなさいましたか、私(わたくし)の顔に何かついていますか?」

「ぎょ・・・」

「ぎょ?」

「魚人!?」

「人魚です!いいえ、正確にはシー・ビショップという人魚の種族です」

「シー・ビショップ!?」

両手を腰に当てて、ぷりぷりと怒るシー・ビショップ(しかしグーゼスからすれば可愛いとすら思ってしまう)
そして泳ぐようにグーゼスに近づいて両頬を持っておでことおでこを合わせる。

「熱はありませんね、体に痛みはありませんか?」

「・・・」

「??どうかなさいましたか?」

「・・・っは、い、いやなんでもない・・・」

自分から離れてようやく緊張が解けるグーゼス。
見た目は美人で、グーゼスにとって好みのタイプだ。
しかし海で暮らすような魔物がなぜこんなところにと思ったがそれはすぐに解決した。


何故なら・・・ここは  "海の中"  なのだから。



「はい、どうぞ」

特殊な調理道具で作ったスープと焼き魚とパン。
見た目はとても美味しそうで、今すぐにでも食べたいが。
この料理の中に "毒" が入っているという可能性を否定できないグーバスは食べることを躊躇していた。

「あ、あの・・・食べないんですか?ひょっとして食欲がないとか?それとも嫌いな食べ物が入っていますか?」

「あ、いや・・・べ、別に嫌いな物とかは入っているわけではない
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