「キュンとしたい!」
いきなり訳の分からないことを言う男、雨澤 夕介(あめざわ ゆうすけ)。
その言葉に別に耳を傾ける事もなく、マンガやラノベを読む二人の友達(モブ)。
「いきなりどうした?」
「また始まった」
二人の友達は聞きたくはないが、聞かないと話が終わらないのでとりあえず夕介の話に付き合う。
「だってよ!女はよ理想の男にコクられたら、キュンっとするじゃん?けどよ男にはそれがないんだよ!」
はぁぁっと溜息を吐く友達。
もう何度目だろうか?と思いながら夕介の熱弁に適当に耳を貸す。
「キュンって例えばどんな感じなんだよ?」
「よくぞ聞いてくれたな!あくまでもこれは例えで言うなら漫画で男装女子っているだろう?」
夕介は腕を組み頷いて語り始める。
その熱弁に友達はう〜んっと考える。
「まぁ、物によっちゃあ、いるな男装ヒロイン」
「確かにね・・・それで?」
「んでちょっと、男風に喋って・・・こうなんだ、えっと・・・」
段々どう説明しようか言葉が詰まり始める。
そしてそれを見かねた1人の友達が何かを察したかのように言う。
「要するに、女子にちょっとかっこよくコクられたいってこと?」
「それだ、多分!」
「多分かよ!?」
"ダメだこいつ早くなんとかしないと"と思いながら夕介をジトッ目で見る。
その視線に気づき二人の友達を交互に見る夕介。
「な、何だよ?」
「いや〜お前のいう事は・・・まぁわからなくもない、実際ラノベとか漫画とかにいるから」
1人の友達が漫画本を閉じる。
するともう1人も読んでいたラノベに栞を挟んで本を閉じて夕介に向き合う。
「けどそれって漫画とかラノベとかの話だよね?現実にはいないよね?」
「っぐ・・・そ、そうだけ、どよ」
流石に歯切れが悪くなる夕介。
理解はしていた。
自分が理想とする女の子がいるわけがない。
「だろ?まぁお前の言い分も分からなくもない」
「けどさ現実は現実、理想は理想だよ夕介、現実を直視しようよ奇跡なんて起きないよ」
2人言う現実と理想は違う・・・。
そんなこと自分が1番わかっている。
いやわかっていた。
*
「・・・やっぱ理想、なのか・・・」
友達と別れて1人トボトボ住宅街を歩く。
だが理想とわかっていてもやっぱり捨てきれない。
"諦めたくない"と思った。
「・・・ダメだ、例え現実じゃなくても・・・俺はキュンとしたいんだ!」
決意を新たに固めたその時だ。
突然"霧"が発生した。
どこからともなく、霧、霧、霧。
まるで夕介を"神隠し"するかのように。
「ちょ、おいおい、な、何だ何が起きてるんだ??」
流石にこの状況に落ち着くことができるはずがない。
とりあえず冷静に、落ち着き車に轢かれないように隅による。
だがそれよりも嵐のように、霧が晴れて始める。
「い、一体・・・何が、おき・・・たんだ?」
夕介は今の状況に、理解できなかった。
目の前の光景に。
「・・・嘘、だ、ろ」
自分は住宅街を歩いていた。
いや違う
"歩いていたはずだ"
しかし目の前に広がって見えるのはお伽話に出てきそうな。
世にも不思議な不思議な。
"森"
森の中にいる。
何が起きて、何がどうなってるのか"理解"できるはずがない。
「あ、ありのまま・・・ありのまま、今起こった事を話すぜ」
すぅぅ・・・っと空気を吸う夕介。
そして、そのままため込んだ事を吐き出す。
「俺は住宅街を歩いていた、だがいきなり霧が出たんだ、何がなんだかわけもわからなくて、気づけばこんな変な森にいる何を言っているかわからないと思うが・・・」
そしてまた空気を吸い込む。
さっきよりも、多く、多く空気を吸う。
「ここどこだぁぁぁぁぁっ」
どこだぁぁ
こだぁぁ
だぁぁ
夕介が叫ぶとバサバサっと遠くで鳥が飛び立っていく。
どうやらここは本当に"森"だと確信した夕介である。
*
森の中を歩く、歩く。
ひたすら・・・ただひたすら。
「なんだよこの森・・・出口はないのか?」
はぁはぁっと息も切れ始める。
取りあえず、歩いてみたものの出口らしきものはなく。
そして、体力も悪戯に消耗してしまい少しその場に倒れるように横になる。
「ちょっと休憩・・・もう、無理」
仰向けで空を見ると、空の色は青くはなかった。
空の色は少しピンク色で漢字2文字で表すなら"好色"や"色欲"と想像できる。
「・・・このまま、死ぬのか?」
まだ恋はしていない。
まだ彼女も出来ていない
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