これが恋だと気づいたキューピッド

天(そら)から1組のカップルを見下ろす魔物娘がいた。
ゆっくりと "黒い矢" を持ち、男を狙って撃ち抜こうと構える。

「・・・」

そして何の躊躇もなく "黒い矢" を撃ち抜いた。
天からの攻撃その矢は男の心臓に突き刺さった・・・が外傷はなく射抜かれた男もそれに気づいていない。

「次は、あの娘(こ)」

すかさず、矢を持ち撃ちぬく体制をとる。
しかし先ほどの "黒い矢" とは異なった色 "黄金の矢" を持ち今度は女性の方に向けて射抜く。
その黄金の矢も彼女の心臓に突き刺さるが、男と同じように射抜かれたことに気づいていない。


だが、変化はあった。


カップルの男は寄り添うように、女に体をくっつき。
女もまたそれを受け入れてよしよしっと頭を撫でる。
そして二人は、やがて公共の場にもかかわらずキスをすると両者に突き刺さった矢が消滅するように消える。

「次は・・・」

天から矢を放った魔物娘の正体は "キューピッド" という魔物娘。
先程放った2つの矢は恋を成就させる矢である。
黒色の矢は喪失感を高め、黄金の矢は愛情を高める。
この2つの矢を使いこなしキューピッドは文字通り、恋のキューピッドになるのだ。

「・・・彼」

そしてまた、同じように矢を持って1つの恋を叶えさせようとする。
狙いを定めて、矢を放つ。

「・・・え」

しかし異変があった。
普通の人間なら喪失感に襲われる。
だが射抜いた男は平然と、歩き、平然と異性と会話をしている。

「な、なんで・・・効かないの?」

もう1度矢を放って試みる。
1発がだめならまたもう1発。
それを何度も、何度も繰り返すが・・・結果、何も変わらなかった。

「・・・これは・・・一体どういう事?」

今までこんな事がなかったキューピッドは理解できず。
逆にその男に興味を持ち天から、男の後を追いかけた。



「ただいま」

バイトから帰宅して途中コンビニ弁当を温める月野 久良真(つきの くらま)。
コンビニ弁当が温まるまで、飲み物を冷蔵庫から取り出して。
同時に温め終えたコンビニ弁当を出して小テーブルがあるリビングに運ぶ。

「いただきます」

手を合わせて、1人ご飯を食べていく。
1人暮らしの原型ともいえる光景だ。
黙々と・・・ただひたすらコンビニ弁当を食べて終える。

「・・・はぁ、ごちそーさん」

全部食べ終えてゴミとなったプラスチック箱洗って分別し捨て。
コップに飲み物を注ぐ。

「・・・ふぅ」

一息ついてテレビの電源を点ける。
するとちょうどニュースで男女の "カップル成立率が異常" というニュースが流れる。

「・・・っけ、何がカップルだ、何が恋人だ」

っけっと、吐き捨てる久良真。
それは彼が "女に裏切られた" からだ。
1度や2度ならまだましなほうだ。
しかし久良真の場合、その裏切られた数は計り知れない。

「ああ、むしゃくししてきた・・・風呂入って・・・」

テレビを消して、風呂場に行こうとするピンポーンと呼び鈴がなる。
「こんな時間に誰だ?」と風呂場に行くのをやめて玄関へといく。

「へいへい、今出ま・・・す、よ」

玄関を開けて少し硬直する。
何故なら玄関を開けるとコスプレ美女(久良真からすれば)が立っていた。

「・・・こんばん」

久良真は、速攻で玄関を閉める。
それは久良真にとって理解できない状況ゆえの行動だ。

「・・・な、なんだ・・・い、今の、こ、コスプレ女」

だがしかしそれでも呼び鈴が鳴る。
何度も、何度。
流石にこれ以上は近所迷惑になると思い、チェーンロックをした状態で玄関を開ける。

「・・・」

「こんばんわ、やっと出てくれた」

よく彼女を見る。
少し露出がある水着のような服を着て。
背中には "羽のような" 物を付けて見るからに怪しい。

「えっと・・・あんた、何者?」

「私?私はキューピッド、キューピッドのエルヴァ」

「は?キューピッド!?」

頭が痛くなりそうになる。
今どき、電波な女とは・・・溜息を吐いて、相手を見る。

「どうでもいいが、俺はあんたを知らない帰ってくれあと呼び鈴も鳴らさないでくれ、近所迷惑にならからな」

言いたいことだけを言って玄関を閉まる。
締まる直前、エルヴァは「あぁ」っと腕を伸ばそうとするが。
久良真の事を考えて伸ばすのをやめた。



「これでよしっと」

1夜開けて朝。
朝食を食べて服を着替えて大学に行こうとする。

「行ってきま!?」

久良真は驚いた。
何故なら玄関の前に昨日の女が体育座りでいたからだ。

「・・・あ、おはよう」

ゆっくりと立ち上がって。
ジィィッと久良真を見つめる。

「あ、あんた・・・まだ、ここにいたのかよ?」

季節は春だが、夜はまだ肌寒い。
下手をすれば風邪を
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