昔から多く語り継がれる冒険譚のひとつに「迷宮探索」がある。要は財宝や名声などの為に魔物達の巣くう迷宮に乗り込んで行く話だ。
迷宮では財宝を守る為の危険な罠、待ち構える強大な魔物達、まるで謎を解く侵入者を待ち続けているかのような巧妙な仕掛け、そしてそれらを乗り越え奥へと進んでゆく冒険者達。俺の故郷では魔物に対して敵対的である「教団」の影響が強いこともあってそういった話には事欠かなかった。
俺は小さい頃からそんな迷宮探索の話を読んだり聞いたりする度に心躍らせ、いつかは自分もそんな話の主人公のような冒険者になることを夢見ていた。
しかし、成長した俺は冒険者と胸を張って名乗れるように方々を旅し実力を付けていったが、どうにも新しい迷宮についての話やそこに隠されていた財宝の話、またそこで出会った魔物の話などをいくら集めても自分が求めている話とは大きく違っていた。
故郷を出る前の昔の俺は全く知らなかった事だが、前の魔王が代替わりしてから魔物達がほぼ全ていわゆる「魔物娘」となり、彼女達はかつて殺しあってすらいた人間たちに情欲、あるいは愛情すら持つようになり時には自分を人間側に合わせるような形で積極的にアプローチしてくるようにすらなってからどうやら魔物と人間の関係は様変わりしていたらしい。
俺がかき集めた新しい迷宮の話は、小さい頃聞いたような血湧き肉踊る死と隣あわせな話はなく、なんとも淫靡で享楽的な話ばかりだった。
例えば、とある砂漠で発見された迷宮ではマミー達に貴重な水を分けて貰った代わりに全員が根こそぎ別のものを搾り取られたとか。
また、別の森の奥で発見された迷宮では命からがら逃げてきた一人を除いた冒険者達はきのこ人間と化して今でもマタンゴ達と交わり続けているとか。
そして遥か東の地では、強力な妖狐が支配していた迷宮が肥大化しもはや一つの大きな魔物達の国と化し入り込んだ人間共々快楽の饗宴に巻き込み続けているとか。
殆どの話が大体こんな具合である。いつしか迷宮はさながら夜の街と化していたのかもしれない。確かに魔物娘達は魅力的だし、聞けば命の危険は無いと言うしそんな所に飛び込んでみたい気持ちもある。
「教団」の連中やその影響を受けた人々は、魔物達は危険で邪悪な存在であり、彼女たちとの戦いは死と隣り合わせの世界で、それを倒してくる事こそ正義だと教え込む為に幼少の俺にあんな話をしていたのかとすら思えてきて空しい気分にすらなってきた。
現に連中の影響が強くない所へ行ってみれば、魔物娘たちが邪悪どころか人と肩を並べたりあまつさえ手まで繋いで歩いているのを見かけるなんてしょっちゅうだ。俺だって一緒に仕事をした事すらある。
ある意味では平和な世界になりつつあるのかもしれないが、何か心に満たされない何かを感じつつも時は流れていった……
所がそんなある日、俺はある噂を耳にした。
「ある高山に、『旧時代』の魔物達がひしめく危険な迷宮が現れたらしい」
なんでも最初に発見した冒険者達の話によると、そこはかつて俺が聞かされていたような強大な魔物達と危険な罠、そして大量の財宝がありまるで前魔王の時代に来てしまったようであったらしい。
そして奥へ進んでいくたびに激しくなる敵の猛攻に耐え切れず全員が死を覚悟したその時、全員の意識が薄れ気がつくとそれまで発見した財宝はすっかり失って迷宮の外に放り出された格好でいたという。
この話を聞いた俺は直ちに実際に行ってきたという冒険者を探し出しては話を聞きとにかく情報を集め、同時に来るべき冒険に備えさらなる研鑽を積んだ。
別に旧時代の魔物を滅ぼしたいとかそういった考えはさらさらなかった。俺が昔夢見ていた死と隣り合わせの迷宮探索ができるかもしれない、ただそれだけの思いが俺を動かし続けていた。
集めた情報を元に迷宮に赴く前夜、麓の酒場で「本当に一人で行くのか?」と周囲の人に何度も聞かれたが俺は協力者を募る気は全くなかった。
確かに一人は危険だ。しかし迷宮に単身乗り込んで財宝を持ち帰るかつて聞いたの英雄譚の主人公になりたい、いやそんな風に振舞いたいという子供のような気持ちがすっかり俺を支配していた。
翌日の朝早くから出発し、そして道のりは決して簡単では無かったものの迷宮は案外あっさりと見つけることができた。
切り立った高山の中腹にある洞穴は明らかに何者かの手が加えられておりさながら小さな神殿の入り口のようであった。これがその迷宮に間違いないだろう。
迷宮の入り口付近には看板があり、こう書いてあった。
*** Welcome to Grounds of the Dragonic Overlord ***
竜王の試練場へようこそ!
何やら小馬鹿にされた気分すらし
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