薄暗い森の中を、俺は一人で駆け抜けていた。静寂が広がっている空間で鎧がこすれる音がよく響き、あたりにいるであろう魔物に存在を感づかれるだろうが、俺はそんなことを気にしない。
俺はレイ・ノートン、反魔物領の部隊所属の一兵卒である。別に主神を信仰しているからとか、魔物を殺したいからとかそんな理由で兵隊になったわけではない。ただ単に食い扶持がなくて給料目当てで入ったにすぎない。
いや、もう一つ理由があった。昔、俺の祖国に隣国が攻め入ってきた時に、俺はただの一般市民だった。奇襲をかけられ、敵国は城塞を崩しながら民や兵関係なく虐殺を始めた。
逃げ遅れた俺は敵の兵士達に追い詰められ、容赦なく切り捨てられそうになった。俺を殺すために振り上げられた剣を見上げながら、俺はこの世の理不尽さを呪った。
−−−なぜ俺がこんな目に・・・俺が何か罪を犯したのか・・・?これが罰だというのか、神は俺を助けてくれないのか・・・−−−
世を呪い、神を呪い、この世の理不尽を呪いながら俺は死を覚悟した。そんな時だった。俺を殺すであろう剣を受け止め、敵の兵士達を薙ぎ払いながら彼女が現れた。
彼女は俺に迫り来る凶刃を払い、敵の血を一切浴びずに一瞬にして斬り伏せた。そして彼女は、煌びやかに光る銀髪を揺らしながら俺に手を差し出し・・・・。
『怪我はないか?』
その時の凛々しい彼女に俺は見ほれてしまった。俺はその後、戦争が終わると同時に彼女がいた部隊へ入隊するために兵士に志願した。
俺を助けてくれた彼女の名前はリーナ・マークス。国を守護する勇者の一人で、部隊を率いる隊長、そして由緒ある一族の娘だった。あの日から俺は、理不尽な死から俺を守ってくれた彼女に全てを捧げることを誓った。彼女と再会した時は、テンパりすぎてかみまくって何を口走っていたのか分からず、顔から火が出そうだった。
だけど、その時の彼女が俺の言葉に噴き出し、笑った時はもうそんなことどうでもよくなった。それから俺は彼女に稽古をつけてもらいながら、彼女を守れるよう力をつけようとした。別に彼女に恋心を抱いているわけではない。
俺が彼女に恋するなど恐れ多いことだ。ただ、彼女がいつか彼女に相応しい誰かと結婚して、幸せな人生を送れるように守りたい、いわば俺の独善にすぎない。それでも、俺は彼女に幸せになってほしかった。誰よりも凛々しく、輝いている彼女に・・・。
それから暫くしたある日、魔物達が祖国に襲撃してきた。隣国が攻めてきたように守りに徹しようと兵士達が行動していたが、どういうわけか魔物達は城塞の構造や部隊の編成、こちらのありとあらゆる情報を知っているようで、なす術なく侵略されていった。
俺はその時、隙をみながら城の防衛から抜け出し城壁の外で戦っているリーナ隊長率いる本隊へと駆け出していた。そして現在に至る。
別に祖国がどうなろうと知ったことではない。ただリーナ隊長、彼女だけはなんとしても魔物達の脅威から守りたかった。あの日、理不尽な死から俺を守ってくれたように。
「はぁっ・・・!はぁっ・・・!急げ、急げ俺!!」
俺は体力の限界を感じながらも、足を動かし森を駆け抜ける。彼女を守るためなら、今なら死ですら俺は怖くなかった。すると、俺の目の前に見覚えのある物が落ちていた。
「っ!?これは、隊長の剣!!?」
それは隊長が使っていた、隊長格にだけ扱うことを許された剣だった。彼女に剣の稽古をしてもらっていた時、よく見かけることがあるからすぐに分かった。そして、どこから人の声が聞こえてきた。
「・・・・っ!・・ぁっ・・・ふざ・・・・っ!!」
「ふふっ・・・そん・・・・もぅ・・・・」
「まさか、隊長!?」
俺は胸騒ぎを感じながら声がしてきた方へと駆け寄る。そこには、淫らな光景が広がっていた。
「あら、お客様かしら?」
「っ!?・・・レイっ!?あぁぁぁっ、見るな、見ないでくれぇっ!!」
蝙蝠のような翼を腰のあたりから生やし、悪魔のような角と尻尾を持ち、絶句するほどの美貌を持ったサキュバスという魔物が、リーナ隊長を押し倒して胸や陰部を撫で回していた。俺はそれを見た瞬間、頭が真っ白になりながらもサキュバスに飛びかかっていた。
「隊長から、離れろ魔物がぁぁぁあああっ!!」
もう少しでやつの首を落とすというところまで剣が届きそうになった瞬間、俺は見えない衝撃を受け近くの大木へと叩きつけられていた。
「もう・・・お楽しみ中に剣を向けるなんて無粋よ?」
「がっ!!?」
「レイっ!!貴様ぁ・・・あぐっ!?ひぅっ・・・あぁぁぁああああっ!!」
「あらあら、彼が来た途端感度が良くなってきたわね」
俺は叩きつけられて肺にダメージを受けたためか、体が思うように動かず呼吸もままならなか
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