ゆらゆらと揺れる大きな船の一室、そこには海図を広げ、ぐるぐると回っているコンパスを眺めている、立派な海賊の帽子を被った一人の男がいた。
風貌は無精髭をはやしながらもまだ青年を抜けて間もない感じで、どこか間抜けそうな雰囲気を持っていた。
彼はキャプテン・ジャン・スパロウと言い、海賊船《ブラックドール号》の船長である。しかし船長といっても乗組員による反乱が起きたため、一時期船を失い乗組員を奪われるという大失態を犯したことがあった。
それでも、彼はとある事情で教団に捕まった際に知り合った一人の青年と共に反乱の首謀者を打ち倒し、船を取り返したのである。
彼はその青年に別れを告げ、そのまま再び海賊の船長として旅を続けているのである。
「ふぅ・・・しっかし、ここんところ港が見つかってないねぇ・・・ってあれ、酒がねぇや。誰だ俺の酒を飲んだの・・・あっ、俺だ」
ジャンは海図とイカレたコンパスを見続けて疲れた目を押さえ、ビンに入っていた酒を飲もうとしたが、もうすでに空となっており、彼はため息を尽きながら新しい酒を求め船倉へと向かった。
皆がすでに乗組員全員が寝静まった夜、ジャンはランタンに火を灯し暗い船倉を漁っていた。
「えーっと、酒はどこかなぁ・・・やっぱここ汚ぇなぁ、明日掃除させっか・・・うわっ、これ中身が漏れてやがる」
ジャンは悪態をつきながらも酒を探す。その時である。
「時間切れだ、ジャン」
「っ!?」
突然船倉に自分とは別の声が聞こえ、ジャンは驚きながらも腰に差しているカトラスに手を添え、声が聞こえた方へランタンを向ける。
すると、なにか濡れたものが歩いているような音を出しながら声の主が正体を現した。
鱗やヒレをはやし、不気味な雰囲気を出しながらも誰もが振り返るであろう美貌、教団では人を喰らう邪悪な存在とされている魔物の一種、水に棲むネレイスという魔物であった。
しかしジャンはそのネレイスにどこか面影があるのを感じ、じっと眺めているとはっとした。
「お前、マリー・・・マリー・ターナーか?」
そのネレイスはかつて自分の仲間であり、反乱を起こされた際に最後まで自分を守ろうとしたマリー・ターナーという元人間の女性であった。
「元気そうだな」
「・・・・・これ夢か?」
「・・・いや・・・」
「だろうな」
「・・・ブラックドールを取り戻したか・・・」
「・・・ある男が手を貸してくれたおかげだ。あんたの息子」
「・・・ビリーが?」
ジャンとマリーはそのまま近くの樽に座り、互いに酒瓶を開けそれをラッパ飲みしていく。
「結局ビリーも、海賊になったか・・・」
「いや、あいつはただ想い人のために俺に助力しただけさ。今頃その女と幸せな結婚生活を送ってる頃さ」
「そうか・・・」
「しっかしお前まるっきり変わったな・・・まさか魔物になっちまったとはな」
「いろいろあったんだ・・・あの反乱の日から、お前と同じようにいろいろとな」
「なるほどねぇ。んで、ヒレと鱗をはやしてわざわざ俺に会いに来た理由は?・・・あぁ、言っとくが魔物になっても相手がいないからって理由なら即刻海にリリースしてやるから安心しろ」
「・・・あいもかわらず、軽口は達者だな。やつの遣いだ」
おちゃらけた言葉と雰囲気のジャンに流されようとはせず、マリーは真剣な雰囲気で重々しく彼を睨んだ。
「デイビー・ジョーンズ」
「っ!・・・あぁ・・・あぁそういうことか」
デイビー・ジョーンズの名を聞き、ジャンは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに納得したかのように頷く。
「海の魔物の女王に脅されて手下になったか・・・」
「私の意志だ・・・」
「・・・」
マリーの言葉にジャンは少しゾクっと悪寒を感じながらもあえてとぼけてみせる。
「あの反乱の時はすまなかった・・・だが私は、お前の味方だった・・・。それが人間としての破滅を招いた・・・私は大砲につながれ海の底に沈められた・・・呪われた金貨の魔力で海神の魔力は効かず、海の重みで身動きができなかった。だが金貨の呪いで死ぬことも出来ず、この苦しみから解放されるならなんでもする、そう思った・・・どんな取引でもすると」
「・・・人ってのは最後の審判が恐ろしくてたまらないんだよな」
「お前もやつと取引したろ」
ジャンがおちゃらけながらも酒を飲み視線をそらそうとすると、マリーはそれを遮るように彼の目の前に立ちふさがる。
「ブラックドールを海の底から引き揚げてもらい、船長をやってきた・・・」
「いやぁそれはーーー」
「ジャン!!」
マリーの言葉に言い返そうとする前にマリーは強い声で彼に有無を言わせず詰め寄る。
「どう言い訳したって無駄だ・・・お前は私よりも重い契約をした・・・百年間、百年
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