僕が生まれた家系は、代々勇者としての人間を輩出してきた名家だった。僕の父も祖父も、そしてそのまたご先祖である歴代の当主達も旧魔物時代から生まれながら勇者としての才能を持ち、各国に名を残す豪傑として知られていた。
また、才能だけでなくひっそりとした山奥に構えた洋館で、ただ勇者となるために己を研鑽し、日々練磨に勤しんでいた。さらには魔術の基礎から応用まで用いた魔術の学術書からジパングから取り寄せた剣術の書物、さらには政治にも通ずるべく教育も施すなど、排他的でありながら様々な方面で一流を取り揃えていた。さらには四人の精霊との契約もご先祖の時代から行なっていたという。
幼い頃からの厳しい教育と類まれなる才能、そして精霊との契約もしているということで多くの国からお付の勇者となってほしいとまで言われているほどだった。そんな歴代の当主達の中で、僕より十も年が離れた僕の姉さんは特に優れていたらしい。
溢れんばかりの才能を持ちながらも、努力を怠らず、それでいてとても優しく勇者として次期当主としての自覚をつねに持っていた姉さんはその時の当主であった父からも太鼓判を押されるほどであった。僕もそんな姉さんを誇りに思っていたし、心の底から好きだった。
しかし、運命は残酷だった。姉さんが勇者としてこれから活躍するであろうと館にいる皆に噂され始めた途端に、彼女は病に倒れてしまった。今までどんな医学書にも載っていない症状で、様々な治癒の魔法に薬を試してみたが、一向に聞かず姉さんは日に日にやつれていった。
僕は必死に彼女の看病を行なった。ほとんど寝たきりになってしまった姉さんの身体を布で拭い、喉が乾けばすぐに冷水を飲ませた。ご飯だって食べさせてあげたし、退屈な時は色んなお話も聞かせていた。ほとんど朝から晩までつきっきりで看病をしていたが、それでも姉さんの病気は治らなかった。
そして最後の夜・・・姉さんはすでに細くなって老人のようになってしまった手で僕の手を掴み、泣きながら僕に謝ってきた。
―――ごめんね、こんな情けない姉で・・・あなたを辛い目に合わせてしまう私を・・・どうか許して・・・―――
姉さんはそれだけ言うと、まるで眠ってしまったかのように息を引き取った。それから亡くなった姉さんの代わりとして僕は勇者としての教育が施された。その日々は、まさしく地獄と言っても過言ではない。
毎日早朝から剣の訓練が始まり、終わればすでに手は皮膚が擦り切れたりして血だらけで、それを碌に消毒もせず洗いながして勉学に励む。大国でも優秀な学院に配布されている難しい学術書に向き合い、居眠りも休憩も許されずただひたすらに知識を頭に叩き込んでいく。それが終われば今度は魔法の練習だ。
勇者として光属性の魔法だけでなく、古代に使われていた魔法をも使いこなすよう研鑽を重ねる。当然失敗すればとんでもない大怪我を負うことだってあった。しかしすぐに治療薬と治癒の魔法で傷を癒し、強制的にまた訓練を再開させられる。
怪我の絶えない毎日や嘲笑や罵倒の日々に、僕はいつも悲鳴を上げていた。だが、それでも僕は勇者になるために努力を重ねた。なぜなら亡くなった姉さんに墓の前である約束をしたからだ。それは『姉さんがなれなかった勇者になること』だ。姉さんはきっと、こんな辛い日々を僕に送らせないために勇者を目指したんだと思った。すでに姉さんは死んでしまったので確かめる術もないが、それでも僕はその姉さんの今までの努力を水の泡にしたくなかった。
もし、僕が勇者になれなかったり逃げ出したりすれば、今までの姉さんの思いが否定される。姉さんを否定されるなんて僕には耐えられなかった。だから、僕は姉さんの生きた証を証明するために勇者になる。そう心に決めたのだ。
そんな僕をいつも支えてくれたのは、僕の家系にずっと付き添ってきた4人の精霊達だった。彼女達は、僕のご先祖と契約し盟約によってずっと歴代当主達に契約によって力を授けてきたという。
僕が勇者となれば、いずれ僕も当主になる。そんな次期当主を支えようと彼女たちは僕に気を使ってくれたのである。辛い訓練で泣きそうになったときは優しく慰めてくれて、一人寂しく思う日は陽気に僕と接してくれて、くじけそうになっても静かに僕を諭してくれて、訓練に行き詰まったら熱心に付き合ってくれて・・・彼女たちはいつか、僕にとってかけがえのない存在になっていたのだ。
だからなのだろう・・・彼女たちが突如魔精霊と化して僕を求めるようになっても拒絶しなかったのは・・・いつの頃だろうか、肉体を持たないはずだった彼女達が実体を持ち、さらに強い契約をするために交わりを求めてきた。僕は最初こそ戸惑ったものの、精霊のことをあまり知らなかった僕は強い力が使えるよう
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