快楽を強請る

「いやぁ、きつかった…」
寂れた無人駅の改札を抜けた男は大きなため息をついた。

少し前にスピード違反を摘発されて免停中、ここから歩いて10分ほどで自宅アパートに戻らないといけない。
この日はタイミング悪く部活帰りの中学生・高校生の一群とかち合い、途中までもみくちゃに押しのけられる始末。
改めて違反者講習を受けなかった事を後悔し、車の有り難さを知る羽目になった。

不意にふわりと心地よい匂いが通り抜け、何者かに二の腕をがっちりと掴まれる。

「あなた、さっき私の胸に腕押し付けたでしょ。」
女性が恨めしそうに睨み付けてくる。
尖った耳に紅い眼は彼女が人ならざる者、魔物である事を明示している。
やや小柄だが凄くスタイルが良く、美しいブロンドの髪に磁気を思わせる美しい肌、何より細かなリブの入ったダークグレーのタートルネックニットからこれでもかと主張するたわわで絶対に柔らかい胸。
うっかり見惚れてしまうところだったが、事情がそれを赦さない。

恐らく先程もみくちゃにされた時に運悪くぶつかっていたのだろう。
そんな邪で破廉恥な真似をする余裕など無い、況やその行為を堪能する事などできる筈もない。

事情を話すと、大きく溜め息をついた。

「そう…なら示談の話に移りましょうか。」
一旦駅舎を出て隣接する待合室に入った。


――――――――――――――――――――――――――


「こっちは冤罪喰らってるんだ、示談にしても弁護士通して話をしたい。
そうでなければ一円も払うつもりは…」
「お金なんていらない。」
そう言うが早いか、一気に後ろに回って羽交い締めにした状態でベンチに座り込む。
もっちりとした太ももの上に座る形になり、むにゅぅ…と胸が背中で柔らかく押し潰される。

「私、ヴァンパイアなんだよね♪」
男の右の首筋に一瞬だけ走った痛み、それを塗り潰す波紋のように全身に広がる蕩けるような快楽。
全身が心地よく脱力し、だらしなく口元から涎が垂れる。

「あーあ、ちょっと血を吸われたぐらいでこんなに幸せそうにしちゃって…。
じゃあ、こんなのもどう…?」
ヴァンパイアは桜貝のように整った爪で両乳首をかりかりと優しく引っ掻き始めた。
服越しで余計な摩擦や痛みは吸収され、純粋な刺激が快感として容赦なく乳首に襲い掛かる。

乳首責めの快感から逃れようと体をくの字にすると吸血の快楽に蕩かされ、吸血の快楽から逃れようと体を反らすと乳首責めの快感に襲われる、何をしても容赦なく気持ち良くされる。

「ふぁ…あ…あ…」
溜まりに溜まった快楽と快感が一気に臨界点に到達した。
目の前が一気に真っ白になり瞳孔が開き、全身が痙攣して呼吸すらきつくなる。

「血を吸われて乳首責められてイっちゃって…気持ち良かったね。
じゃあ、もっと気持ち良くしてあげるね。」
ヴァンパイアが今度は男の左の首筋に噛み付き、再び吸血を始めた。
再び蕩けるような快楽で動けなくなったところを、かちゃかちゃと音を立ててベルトを外し、シャツの裾をズボンの中から引き剥がし、左手をシャツの中、右手をパンツの中に入れた。

血を吸いながら左手でペニスを優しく扱き、右人差し指の腹でくりくりと右乳首を優しく転がす。
先程とは比べ物にならないほど明確な快感、況や自分で慰める時など比べ物にならない。

一瞬より短くも永遠より長く続いた極楽のように甘い時間、男が気持ち良さの虜になっている間に絶頂が押し寄せてきた。
普通なら一瞬で終わる絶頂がいつまでも続く、滑らかで吸い付くような触り心地の掌に精を吸い取ってもらっているような、いつまでも天にも昇るような心地。

数十秒続いた絶頂の後、ズボンの中から出てきた掌には、白く粘ついた液体が溢れんばかりに堪えられていた。
ヴァンパイアがそれを美味しそうに一口で飲み干す。

「ごちそうさま、血も精液もおいしかったよ。
じゃあ、これで示談成立…あれ、おーい。」
血と精を抜き取られた消耗と、それ以上の快感と快楽で立つ事や喋ることはおろか、目の焦点を合わせたり口を閉じる事もできない。
かろうじて意識はあるが、余韻で蕩け切った状態である。

「…まあいいや。
一緒に家でお酒飲んでからベッドで…と思ってたけど、すっ飛ばしちゃお♪」
真っ赤な三日月が昇る夜の空の下、駅の駐車場に停められた軽ハイトワゴンのキーロックを解除し、男を後席に乗せてシートベルトを締めた。


――――――――――――――――――――――――――


「俺の腕があんたの胸に当たってたのは事実って事か?」
ネギを口に押し込みながら、ヴァンパイアはこくりと頷いた。

「じゃあどうしてこういう事を…普通に警察に突き出せば良かったのにさ。」
まさかヴァンパイアが自分と同じアパートの2階に住んでいるとは思ってもみなかった。
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