ここは、私たち魔物娘が受け入れられ始めてきた…そんな世界
私、沙原ヤミはそんな世界で何もなすことがなく、死んでしまった女だった
昔から地味で、人見知りだった私は対人関係を上手く築くことができず、何をやっても失敗ばかり……正直、他人がどうしてそんなにコミュニケーションがうまく取れているのかも疑問だった
そんな私だけど、ある日……運命の日が訪れた
そう…私の人生が終わり、ある意味では始まった日が…
あの日、私は読んでいた漫画の新刊を買い、少しウキウキしながら家に帰っていた時だった
?「おい!!新入り!!ここ間違ってんぞ!!しっかりしろよ!!」
いきなり聞こえてくるその声に気を取られ、私はそっちの方を向いてしまう…
すると、そこに新入りと呼ばれた青年が申し訳なさそうに店長らしき人物に頭を下げているのが見えた
その青年は、私と同じような地味な身なりで…なんていうか、すごい共感が持てた…っていうか、正直かなり好みだ
私ももうすぐ30……まさか、この歳になって始めて好きという感情を抱くとは思わなかった
だけど…私はその時周りをよく見ていなかったのだ
通りすがりの人「あんた!!あぶなっ……」
ヤミ「えっ……?」
いきなり私を呼び止める声が聞こえ、はっと正面を見たときにはもう遅かった
横断歩道の信号は赤……そして、気づかずに突っ込んでくるトラック……
その状況に気がついたときには、私の体はすでに宙を舞い…その後、激しく地面に叩きつけられた
グシャッ・・・・・
何かを考えている余裕なんて一切ない…余りにも突然な死だった
自業自得とはわかっていたけれど、最後に自分の目に写った好みのあの青年のことが忘れられない……
いざ、死んだ時に意識がなぜかあることに気がつき…最初に思った感情はそれだった
彼はこれから、好きな人を見つけて恋愛をしていって…幸せな家庭を築いていくのだろうな‥なんて、そう思うと…なぜか心がゾワゾワとした
なんで……私はずっと独りだったのに……
本当は恋とかもしてみたかったのに…知らないあいだに29にもなって……
そして、惨めに人生を終えるなんて……
あぁ……いいなぁ……あそこにいるカップルとか、幸せそうで…
あそこにいる魔物娘と男性のカップルなんて、すごくイチャついてて…
羨ましいな……なんで……私は……
なんて、死んでから思っていると……いきなり体の指先と下半身がゾワゾワしてきたことに気がついた
なんだろう……すごく…熱い…
熱い
アツい
アツイ
あつい
ヤミ「あぁ……あぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあああぁぁああああぁぁぁああぁっ」
叫んでいないと、おかしくなりそうだった
体を襲う火照りは、どんどんと温度を上げて私を蝕んていく…
そして、その火照りに私が我慢できなくなったとき…私はあることに気がついた
私の体が、青白い炎のようになり……その炎が私の心と体を焼いていく…
やがて、その炎を覆うように私の炎を檻のような何かが覆っていった
そう……私はどうやら、死んで何らかの原因で魔物になってしまったのだ
なぜかは分からないが…今、自分は魔物なのだとわかる…
ヤミ「私……魔物になったの…?な…なんでだろう…?あれ…し、死んだんじゃなかったのかな…?」
自分でも気持ちの整理がつかない……
と、その時目の前をカップルが横切っていった
その瞬間、私の心の中で黒い感情が燃え広がる
羨ましい…彼女は愛してくれる人がいて羨ましい…
そう思うと、すぐに街のあちらこちらにいるカップルや夫婦が目に付き……
私はなんとも言えない感情に襲われた
おそらく、これが嫉妬心というものなのかもしれない
昔も、カップルを見ているといいなぁ…とは思ったけれど、いまはそんなのは比にならないくらいに羨ましいという感情が強くこみ上げていた
そして……それと同時に私が最後に見た……名前も知らないあの人の顔も思い出していた……
ヤミ「そ……そうだ……あの人の名前が…知りたいな……」
そう思うと、私はあの人がいた店の方へと近づいていった
時刻は夜だけど、あたりには人がたくさんいる……
でも、私が近くを通っても、誰も気がついたような素振りは見せなかった
もしかしたら…私は幽霊にでもなったのかもしれない
その店の前に行くと、意中の彼が窓ふきをしているのが見え、彼の前で鏡越しに彼を見つめた……が、彼は気がついたような素振りは見せない
や、やっぱり…気が付いてない!!
こ、これなら……彼の名前を知るぐらいなら…簡単にできるよね…
なんて思いつつ、こっそりと店に入って彼の近くに行く…
その時だった…
?「凪人(なぎと)くん、窓…拭き終わった?」
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