となりの部屋の・・・

きっかけは……本当に小さなことだった。

今から三ヶ月ほど前、俺こと笹原 茂成(ささはら しげなり)は最高にうまく人生を謳歌していた。
謳歌していた…といったが、それほど立派な生活を送っていたわけではない

社会人になって5年、社会のつらさなども味わいつつ、それなりにいい仕事ももらえるようになったサラリーマンの俺は、今日も取引先の交渉を成功させ、いい気分で家に帰っていた。

その帰りのことだった…
いつもどおりの見慣れた…さびれた駅のホームでそれは起こったんだ
目の前にいた、ものすごく髪の毛の長い女性が髪を通行人に踏まれ、バランスを崩したんだ
そして、バランスを崩した彼女は電車が来ているホームにバランスを崩したんだよ!!


その時の俺は、とっさの判断で立ち上がり…気が付くと、彼女を助けようと手を伸ばしていたんだ
この時……彼女は運良く助かり、俺は周りの人の喝采を浴びながら、颯爽と帰路についたのを今でも覚えている


俺「今日は、いつにもまして冴えてるな俺っ!!こりゃあ、いいことがある気がするぞ……ん…?うわっ!?なんだこの髪の毛!?」

俺が家に帰ると、自分の持っていたカバンになにか長いものが挟まっているのに気がついたんだ…
それは、ものすごく長い髪の毛の束だったんだ

俺「……さっきのあの人を助けた時にでも、抜けちゃったのか?しかし……本当に長い髪の女性だったな…表情も髪に隠れてまったくわからなかったし…夜にであったら、幽霊と勘違いしてしまうかもしれないLVだぞ…?」


それから、俺はいつもと同じように布団の中に入り、寝たのだった


  〜その日の晩〜

カタッ……カタッ……カリ……カリ…


ん…?なんだ…この音は?
俺はアパートの自室の玄関の方から、変な物音が聞こえてくるのが聞こえ目を覚ましたんだ
時刻は夜の三時…普通なら、そろそろ新聞配達があたりを回る時間だが…
この音は、今まで聞いたことのないものだった


俺「……気になるな…」

俺はのっそりと体を布団から出し、玄関の覗き口から、外の様子を伺おうとした…その時だった!!

その覗き口から、誰かが部屋の中を覗いていたのが見えたんだよ!!
そして、その謎の人物と目があってしまったんだよ!!
その目を見て、俺が感じ取った感情は…恐怖だった
思えば、この時にこの人物を不審者だと思わず、立ち向かわなければ今の自分のような怖い状況に陥らなかったのかもしれない…
この時……恐怖に身を任せ、布団に戻りこれは全て夢だと言い聞かせたなら…自分の運命は大きく変わっていたのかもしれない


俺「……ふ、不審者!?くそっ…なんだってんだ!?」

俺はキーチェーンをかけながら、部屋の鍵を開ける……
すると、扉の前にいたのはあの帰りに俺が助けたあの女性だったんだ
こんな真夜中に…女性がなんのようだってんだ?


女性「………あの…となりの部屋に住んでいる、桜っていいます…昨日は助けて頂き、本当にありがとうございました…本当は昨日お礼に行こうと思っていたのですが、いくらインターホンを押しても返事もなく……」

俺「えっ!?あぁー…そういやぁ、直してないんだったな…って、もしかして昨日からずっとここにいたんですか!?」

桜「……………」

俺「と、とにかく……立ち話もなんですので、どうぞ…」



まさか…助けた女性が隣に住んでる人なんて…こんな偶然があるんだな…
……ん?隣は空き部屋だったはずだけど……俺が知らないあいだに人が住んでいたのかな?とにかく…今時、こんな律儀な女性も珍しい…
正直、一日越してでも待つなんて、やりすぎなんじゃないかって思ったりもするし、少しひいてしまったが…
扉を開けて彼女を見ると、別に扉越しに感じた感情は湧き上がってこなかったんだ
表情がわからないから、その感情が起こらないだけ……なんて、考えられないだろ?


俺「……え、えっと…お茶とコーヒーとどっちがいいですか?」

桜「あっ……お、お茶で……」

俺「そんなに、男の部屋が珍しいですか?そんなにキョロキョロしても、めぼしいものなんてないですよ?」


俺はそう軽く冗談も交えつつ、桜さんにお茶を入れて出したんだ
彼女はせわしなく周りをキョロキョロと見回しているけど…そんなに男の部屋が珍しいんだろうか?

桜「……なんだか、こんな夜中に男女ふたりきりなんて……変な感じですね」

俺「そうですか?あぁー……まぁ、確かに夜中の三時は普通の時間ではないですからね……しかし、今回は本当に大事に至らなくて良かったですよ」

桜「えぇっ……本当に、感謝しています。神様が、導いてくれたのかもしれませんね…本当に…ふふっ…」

俺「えっ……?あっ…そうですね…」


……なんだ?さっき…一瞬だけ桜さんの雰囲気になにか変なのが
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