遭遇と境遇 (前編)

   ○プロローグ○
 
 人は、誰にもまねできない、ありえないことが出来る人間、イレギュラーな人間を見たらどうするだろうか。
 
 天才として羨ましがるか。
 神として崇めるか。

 そして、悪魔として、鬼として化け物として怪物として……

 恐れ、忌み嫌うか。

 ここまで違いはあってそれでも、イレギュラーは生まれ、成長し、その才を遺憾なく発揮する。

 それを役に立てようとする者、隠そうとする者、悪用するもの……様々に種類はあれど、ただひとついえることがある。

 凡人はイレギュラーにはなれない。
 
 だからみな努力しする。イレギュラーにもっとも近い人間は優秀という評価を受け、そうでない人間とは区別される。努力によって変えることが出来る、それが人間の、レギュラーの考え方だ。

 しかし、イレギュラーはそうはいかない。生まれてすぐに、というわけにはいかないが、イレギュラー同士の差は年を重ねるごとに実感できる。

 能力の差は一生埋まらない。

 天才でも神でもあくまでも鬼でも化け物でも怪物でも。

 限界はあるのだ。

   
   1章

 目の前には一枚の契約書があった。ただにひたすらに文字を書き連ねたような、見ていると眠くなるものだ。
 無機質に見えるその文字は、書いた人間の思いを集約し、意味を成している――そう思えるのは俺の気のせいだろうか。
 そしてこの文字には……。
「……全くもって面倒なことになりました……」
 書いた人間のなんともやるせない感じが伝わってくるのだ。
「……何でこんなことになったんでしょう……」
 人というのは面白い。たとえ隠そうとしても楽しさ、悲しさ、憤りが、言葉や文字、表情に雰囲気で伝わってくる。もしかしたら、後者の表情や雰囲気については動物にもいえるのかもしれない。
「……あの……」
 そうなるとおもしろい。人は言葉があるから良いが、動物には無い。もしかしたらその機能が発達してテレパシーのようなことをしているのかも
「……聞いてますか……?」
 ……あ。
「はいはいもちろん!なにせ久しぶりの依頼ですからねぇ、ちょっと作戦考えてたんですよ。」
 そう言って俺――デルト・クロイスは、依頼人――カーペンターさんに向かって笑った。
 ここは俺の住んでいる家の中にある事務所だ。自分の前にはカーペンターさんとその人が座るソファ、テーブルの上に契約書。
「それでカーペンターさん、そちらとしては――」 
「カーエンターです。カーペンターではありません」
「……ハッハッハいやだなぁ、僕はそんなこと言ってませんよ〜」
 冷や汗が額に浮かぶ。出来るだけ顔を真面目にしなければ。
「……で、どういった措置をとればいいんですか?そのゴブリンに対して」
 そう、ゴブリン。それがこのカーペン――失礼カーエンター、村長の悩みらしかった。
「具体的に……」
 そう言うと、やはりカーペ――もういいや村長は黙り込んだ。
「出来れば話し合って」
「無理です」
 俺はそう断言した。
「そういったことはもう実践されたんですよね。それで無理だから僕のところへ来た。……違いますか?」
「……はい。実は話し合っても話し合っても『そんなことは知らない』の一点張りで……」
 
 このしょぼくれたオッサンとしか言いようのない村長を困らしている事件というのは、村の男たちが行方不明になっていることだった。被害者は二十四人。このままでは村の男手がいなくなってしまい、村の存続も怪しい。
 関連性を探ろうにも若い(と入っても二十歳から四十歳まで幅広い)男達であること以外に共通点は無い。
 村では、周りに住んでいるゴブリンたちがさらったのだ――という結論に達した。
 
 しかしそれにしても……。
「妙ですね……」
「? 何がですか?」
「多すぎます」
 そう、いくら若い男をさらうのがゴブリンといわれていても、短期間に十人以上の人間をさらうことはないはずである。
「ただ単にゴブリンの頭数が多いだけなのか……。それとも何か、別の理由があるのか……」
 村長は黙り込む。そりゃそうだ。それもわからないからここに来ているのだから。
「まぁいいでしょう。では、今回はゴブリンの調査。調査方法は問わないと。それでいいですか?」
「……はい」
「調査費用はいくらほどで?」
「……銀貨二十枚。前金は三枚です。」
 質素に暮らせば、しばらくは生活に困らない額。村としても死活問題なのだろう。
「いいでしょう。ではこちらを」
 俺はそういうと、目の前にあった契約書を手に取り、半分に破った。
 ビリィッ
「そちらが書いた依頼内容と調査費用の契約は両方に書かれているので問題ありません。それでは受け取ってください」
 俺はそう言って破った紙の半分を村長に渡す。これで契約は成立だ。
「…
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