Virgin Bicorn

突然だが私、ゼオ=シディアには好きな人がいる。
「あ、ゼオさん。おはようございます」
彼女が私の好きな人であるヴァージニアさんだ。
「お、おはようございますヴァージニアさん」
情けないことに声が裏返ってしまった。顔が赤くなってるのが自分でも分かる。
「どうしたんですか?顔が赤いですよ」
「な、なんでもな」
私が何か言う前にヴァージニアさんが私の額に手を当てた。
「よかった。熱はないみたいですね」
ヴァージニアさんは心底ほっとしたような顔をした。彼女の可憐な笑顔を見て私は胸の鼓動を抑えることができなかった。
「で、では研究があるのでもう行きますね」
私はこれ以上顔を合わせていられなかったのでヴァージニアさんに背を向けて走り出した。
「あ…」
ヴァージニアさんは寂しそうな声を出した。多分私と言う話相手がいなくなったからだろう。私に無防備な姿を見せるのも単に私を異性として認識していないからに違いない。そう、私の思いが叶うことは絶対にないのだ。なぜならーーー彼女はバイコーンだからだ。

バイコーンとはユニコーンが魔物と交わった男性と性交した結果変化する魔物だ。ユニコーンが『純潔の象徴』として知られているのに対してバイコーンは『不純の象徴』として知られている。バイコーンと交わった男性の体からは魔物を惹き付ける魔力が発せられ、どんどんハーレムを拡大させるそうだ。
少し話が脱線したが、要するにヴァージニアさんにはすでに好きな相手がいるということだ。魔物は結ばれた相手を一途に愛するので、私が割り込む隙間など最初からないというわけだ。
彼女がユニコーンの時に出会えていたらまだ私にも希望があったかもしれない。しかし彼女は引っ越してきた時にはすでにバイコーンだった。私の恋は彼女に出会った瞬間から終わっていたのだ。
彼女の夫とは今まで一度も会ったことはない。仕事が忙しいのか、それとも他の女の所に入り浸っているのか。確かなことはよくわからないがヴァージニアさんに寂しい思いをさせているのは確かだろう。私なら絶対に彼女を悲しませなかった。もっと言うとバイコーンに変化させるようなことはしなかっただろう。そんな仮定をいくら並べ立てた所で空しくなるだけだということはわかっている。それでもどうしても彼女の隣にいるのが自分ではないのかと考えてしまうのだ。
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そんな思いを振り払うように研究に打ち込んでから家に向かう途中、家の前に誰かがいるのに気付いた。
「あ、お帰りなさいゼオさん」
家の前にいたのはなんとヴァージニアさんだった。
「…どうして私の家の前に?」
「そ、その疲れてるようなのでご飯を作ってあげようと思いまして」
ヴァージニアさんの思いもよらない言葉に私は思わず黙り込んでしまった。
「あ、あのご迷惑でしたか?」
ヴァージニアさんは私を不安そうな目で見つめてきた。
「め、迷惑だなんてとんでもありません!」
私の言葉に彼女は満面の笑みを浮かべた。
「では作らせてもらいますね。案内してください」

ヴァージニアさんと二人きりという状況にしばらく悶々としているとヴァージニアさんが料理を運んできた。
「お待たせしました。お口に合えばいいんですが」
ヴァージニアさんが運んできた料理はクリームシチュー、パン、蜂蜜、サラダだった。そして一緒に鮮やかな色のジュースを運んできた。
「どうぞ暖かいうちに召し上がって下さい」
ヴァージニアさんに促されたのでまずクリームシチューに手をつけることした。
「お、お味はどうですか?」
ヴァージニアさんはどこか不安と期待が籠った目で見つめてきた。
「…とてもおいしいです」
私の言葉にヴァージニアさんは笑顔を浮かべた。
「そう言ってもらえて嬉しいです。いっぱいあるので遠慮なく食べて下さいね」

「はぁ、はぁ」
ヴァージニアさんの料理を食べているとなんだか体が熱くなってきた。
「どうしました?具合でも悪いんですか?」
ヴァージニアさんが心配そうに顔を近付けてきた。気のせいかいつもより色っぽいように感じた。
「な、なんでもないです」
「無理しないで下さい。寝室までお連れします」
ヴァージニアさんはそう言って私の手を引っ張って立ち上がらせた。
「さあ行きますよ」
ヴァージニアさんはそう言って私の腕に手を絡ませた。私の腕は柔らかい感触に包まれた。
「ほ、本当に大丈夫ですから」
「いいから休んで下さい。ゼオさんに何かあったら私…」

ヴァージニアさんの潤んだ目を見て私の頭の中で何かが切れる音がした。
「きゃっ」
気がつくと私はヴァージニアさん
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