出会いの直後

「ずいぶん大胆ですね姫様。まさか悪逆勇者様の頬に口付けするとは思ってもいませんでした」
 部屋に戻るとソニアが生暖かい視線で出迎えてきた。
「はあ。どこから見てたんだい?」
「もちろん最初からですが?」
 ソニアは全く悪びれることなく言い放った。
「そう言う意味じゃない。どこに隠れて盗み聞きしてたのかを聞いてるんだよ」
「隠れて盗み聞きしてたなんて人聞きが悪いですね。天井に張り付いてたら偶然話が聞こえてきただけです」
 いや、それどう考えても盗み聞きだからね。
「あ、指で天井に穴を空けてしまったので後で親衛隊に直してもらいますね」
 …もうどこからつっこんでいいのかわからないよ。
「姫様。つっこむなどはしたないこと言ってはいけません」
 ソニアは真顔で私をたしなめた。
「すぐそういう方向に取る方がはしたないんじゃないかい?それに私は口に出した覚えはないよ」
「口に出す?」
 …そういうことをまだ幼い姫の前で言っていいのかねえ。もう手遅れだけどさ。

「で、天井に張り付いて盗み聞きしてたソニアが何で私がほっぺにキスしているのを見ることができたんだい?」
「窓から出て足場を伝って見させてもらいました。あ、落ちないように指で城壁に穴を空けてしまったので後で親衛隊に直させますね」
 …城壁って確かものすごい防御呪文が施されてなかったっけ。それに指で穴を空けるとか相変わらずすごいね。
「メイドにここまでこき使われる親衛隊なんて他にはいないだろうね」
「それはそうでしょう。そもそも普通なら城壁修理なんてこなせる親衛隊なんて他にいないでしょうけどね。まあ私が鍛え上げたんですけど」
 やっぱりソニアはめちゃくちゃなメイドだねえ。もし私じゃなくてこの国に忠誠を誓っていたら確実に最大の障害になっていただろうね。

「どうです姫様。全て私が言っていた通りだったでしょう?」
 ソニアは胸を張りながら得意げに言った。
「そうだね。まさかこんな都合がいい話があるとは思ってもいなかったよ。もしかしたら本当にこの国をどうにかできるかもしれないね」
「ええ。あの悪逆勇者様が成長したらかなりの戦力になるでしょうね」
 ソニアはかなり嬉しそうな口調で言った。
「それにしても同年代とあそこまで腹を割って話をしたのは生まれて初めてだよ。私に近づいてくるやつなんてご機嫌を取ろうとしてくるバカしかいやしないからね。まああの娘とは素で話せるけどまだ政治的な話をするには早すぎるからね」
「そうですね。あのお方は姫様とは違って純真無垢ですから」
 ソニアは力強くうなずいた。
「…誰のせいで汚れたと思ってるんだい?」
「もちろん私の教育の賜物だと思ってますがなにか?」
 そこで自慢げに胸を張られちゃうと何も言い返せないじゃないのさ。本当に変なメイドだよソニアは。
「…白いものを自分色に染め上げるのって何か興奮しますよね」
 ソニアはわずかに頬を染めて物騒なことをつぶやいた。
「悪いけどそれは許可できないよ。第一あの娘には早すぎるじゃないのさ」
「そうですか。残念です」
 そう言ってる割には全く残念そうじゃないねえ。それどころかなんか微笑ましそうな目で見てるように感じるんだけど。
「…何だい?」
「いえ、何でもありません。べ、別にお姉さんぶってるのがかわいいなんて思ってないんですからね」
 いや、思ったこと全部口に出てるから。
「口に出てる?」
 …はあ。ソニアの思考回路はそんな所にしかつながらないのかねえ。そういう所を直せば完璧なのにさ。
「え、でも少しくらい欠点があった方がかわいくありませんか?」
 自分で言うかい普通。やっぱりソニアは残念なメイドだねえ。

「それにしてもクソ親父もあんたをよく世話係なんかに選んだものだよ」
「表面上は従うフリをしてたからじゃないですか?仕事ぶりも優秀でしたからね」
 やっぱり自分で言うのかい。ここまで来るともう呆れるしかないね。
「その時私は誓ったのです。姫様を腐った王族ではなく立派な人間に育て上げると」
 ソニアの言葉に私は不覚にも感激してしまいそうになった。
「まあ姫様が腐った王族のやり方に不満を持つようになれば色々面白くなるという理由もありますけどね」
 …やっぱりそんなことだろうと思ったさ。全く。人の感動を返してもらいたいよ。
「ソニアっていつも一言多いよねえ」
「まあ私は他の人より正直ですからね」
 物は言いようってやつだね。一応ソニアが正直だって言うのは当たってるかもしれないよ。

「まあそれはそれとしてどうやって計画を進めようかねえ。まあ今できることは城内に味方を増やすことと、王族や貴族の悪事の情報を集めることくらいだけどさ」
 私の言葉にソニアは考え込んだ。
「そこらへんは私たちで何とかなるでしょうが、問題はクーデターを起こす
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