「姫様。勇者が城に到着したようです」
部屋で本を読んでいるとメイド長のソニアが報告してきた。
「そうかい。で、勇者の印象はどうだった?」
私が聞いたらソニアは珍しく難しそうな顔をした。
「…何とも言えません。一応人当たりがよさそうに見えましたが、どうも笑顔の裏に何か得体の知れない物を感じました」
「得体の知れない物?具体的にはどんな物を感じたんだい?」
「具体的にと言われても説明できません。どちらにしても何かを隠してるのは確かでしょうね」
ソニアが読み切れないなんて珍しいね。今までの勇者は教団の正義を鵜呑みにしてるバカか、勇者に選ばれて調子に乗ってるクズしかいなかったからなんだか新鮮だね。
「そりゃなんか隠しててもおかしくないだろうさ。ただ人がいいだけの男があのエセ勇者をあそこまでいたぶるわけがないからねえ」
「…そう言えば家柄しか誇れないゴミを大観衆の前で公開処刑してましたね。あの容赦のなさには思わず絶頂してしまいそうになりました」
…ソニアってメイドとしては優秀だけどかなりの変人なんだよ。私が教団の教えを理解できないって言ったら、周りに話しても騒がれるだけだから表面上は取り繕うように真顔で説教されたり、『冥土神滅流』って言う謎の武術の流派を城中のメイドに教えて国の正規軍以上に鍛え上げたり、私の親衛隊を私の命令に忠実に動くように調教したりととにかくぶっとんでるのさ。
「何で貴族の息子にあそこまで恥をかかせたんだろうねえ。貴族なんてどうでもいいと思ってるのか、それとも貴族を叩きのめしたことで罰を受けたとしても守りたいものがあったのか…」
「普通に考えたら前者でしょうけど、もし後者だとしたらその勇者とは話が合いそうですね」
まあ確かに話が合うだろうさ。ソニアは貴族は薄汚いハイエナで、私以外の王族は肥え太った豚くらいにしか思ってないだろうからね。
「そんなことありませんよ姫様。そんな例えられた動物が死にたくなるほど失礼で畏れ多いこと考えてません。私は貴族は粗大ゴミ、姫様以外の王族は産業廃棄物だと思っています」
…想像以上に扱いが酷かったよ。何でこの国に仕えてるんだろうねえ。
「私はこの国に仕えてなどいません。私が忠誠を誓っているのは姫様ただ1人でございます」
だろうね。他の事はともかくそのことについてだけは信頼してるよ。
「でもエンジェルが正式な勇者に認めてる以上信仰心が厚い可能性は高いんだよねえ。まさかエンジェルが見誤るとも思えないし」
「…そうとも限りませんよ」
ソニアはものすごく神妙な顔で言った。
「じゃあ他にどう考えられるって言うんだい?」
「そうですね。エンジェルが勇者と組んで主神を裏切ってるって言うのはどうでしょうか?」
…ソニアはいつも無表情だから冗談なのか本気なのかわからないよ。
「さすがにそれはないんじゃないかい?」
「わからないじゃないですか。現に私たち城に勤めるメイドは全員姫様以外の王族なんかクソくらえって思ってますよ?いや、むしろクソそのものだと思っています」
…あまりにも今さら過ぎるけどまだ幼い姫の前でクソとか言っていいのかねえ。
「この城のメイドとエンジェルを一緒にするのはどうかと思うよ」
「でも威張ってるだけで尊敬できるような要素なんか1つもない無能君主相手だったらそういうこともあるんじゃないですか?それに神は主神だけじゃありません。主神のことが嫌いな神の百人や千人いてもおかしくないでしょう」
…どれだけ主神嫌われてることになってるのさ。
「つまり主神の眷属のフリをして潜り込んでるエンジェルもいるって言いたいのかい?考えられなくはないけどそんなエンジェルがこの国にいる可能性は低いんじゃないかねえ」
「でもそう考えた方が面白くないですか?」
そりゃソニアにとっては面白いだろうさ。ソニアはなぜかそういう陰謀説が大好きだからねえ。
「まあ少なくともこの国で生まれた勇者よりは多少は扱いやすいですよね。この国出身の勇者は教団の教えに毒されているから計画持ち込んだ時点でアウトですから。その点本当の仇が魔物ではなく教団だと納得させればそれでいいから少しは楽になると思います」
ソニアが珍しくまともなことを言った。
「本当に多少だけどね。魔物が仇だと思ってる勇者に本当の仇が教団だって言っても信じてもらえるか怪しいし、信じたとしてもすぐ教団に刃を向けられたら話にならないよ。捕まった時にこっちのことが漏れることもないとはいい切れないだろうさ。今回の勇者に私たちの計画が知られるという危険を冒す価値があるかが問題になって来るだろうねえ」
「つまり勇者に計画を知られる危険を冒す価値がない場合勇者は最終的には犯されるというわけですね」
いや、あまりうまくないから。大体まだ幼い姫である私の前でそんな
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