第三話 魔物の教官

 ボクの朝はまず武器磨きから始まる。数多くある武器の一つ一つを手入れしていく。武器っていうのは戦うための魂みたいなものだ。大切に使わないともしもの時に困ることもあるからね。武器が武器だけにあまり壊れるとも思えないけど雑に扱うことはできない。

 それからボクは着替えて食堂に向かった。まだ時間が早いから誰もいない。
「ちょっと厨房貸してもらえる?」
 ボクは食堂のおばちゃんにそう聞いた。
「またあの子たちかい。あんたも大変だねえ」
「1人増えたけどね。まあ別に疲れないし、おいしいって言ってもらえるのはうれしいしね」
 ボクの言葉に食堂のおばちゃんは笑い出した。
「なかなか言うじゃないか。いいよ。どうせいつものことだからね」
「ありがと」
 ボクはお礼を言って厨房に向かった。さて、今日のお弁当は何にしようかな。

 いつもならすぐに朝食をとって出かける所だ。でも昨日から奇妙な同居人が増えたからね。ボクはスースーと寝息を立てているピンクの棺のフタを軽く叩いた。
「おーいジュリア。朝だよー」
 そう。この棺に入っているのが同居人のヴァンパイアのジュリアだ。色がピンクなのはジュリアの趣味だろうね。普段は呪文で小さくして持ち歩いているらしい。どうやらベッドよりも棺の中の方が落ち着くみたいだ。さすがヴァンパイアって所かな。
「むにゃ、むにゃ。あと5世紀だけ」
 どれだけ寝るつもりなの?普通にボク死んでるんだけど。…仕方ない。あれだけは使いたくなかったんだけどね。ボクは棺を開けて水筒の水をほんの一滴だけ額に落とした。
「ひゃうん!」
 ジュリアはすごい勢いで飛び起きた。ヴァンパイアは水に触れただけで強い快感が走るからね。
「おはようジュリア」
「お、おはようございますロキ。…ってそうじゃありませんわ。もっといい起こし方はなかったんですの?!」
 ジュリアは顔を真っ赤にしながら言った。うーん。ちょっとやりすぎだったかもね。
「ごめんごめん。ちょっとジュリアを鍛えてあげようと思ってね」
「鍛える?」
 ジュリアはきょとんとした顔をする。
「うん。日光で身体能力が下がるのは仕方ない。でもトレーニングをしたり、武術を覚えたりすれば力が上がるんじゃないかと思ってね」
 少なくとも昼間に仕える力は上がるはずだ。いくら何でも日光で昼間の経験値までリセットされるなんてことはないだろう。
「いいですわね。何かそれっぽくなってきましたわ!」
 ジュリアはかなり張り切っている。うん。いい傾向だね。
「それじゃ動きやすい服に着替えてくれるかな。あ、それと赤はやめといてね」
 ボクは出て行く前に慌てて付け足した。もし赤いものなんか着てたら大変なことになるからね。
「?わかりましたわ」
 ジュリアはわけがわからないという顔をしながらも素直にうなずいた。横目でそれを確認したボクはドアの前に立ってジュリアを待つことにした。

「お待たせしました。ど、どうですか?」
 ジュリアは黒地に銀のコウモリが描いてあるヘソを出したシャツの上に白い上着を羽織って、下にはピンクのホットパンツをはいている。足にはコウモリの羽がついた運動用っぽいくつを履いている。髪もバレッタで後ろにまとめている。
「いいんじゃないかな。かわいいし似合ってると思うよ」
「か、かわいいって…。べ、別にうれしくなんてありませんからね」
 ジュリアはそう言ってそっぽを向いた。本当にわかりやすいね。
「それじゃご飯食べてから行くよ」
「はい」
 軽く朝食をとった後ボクとジュリアは宿を出た。

 ボクたちはベントルージェ領の外れの森に来ていた。この森には魔界とつながっているんじゃないかって言うくらい多種多用な魔物が出てくる。何度来ても不気味な空気が漂ってるね。
「…一体どこまで行くんですの?」
 ジュリアはボクの腕にしがみついている。やっぱり怖いのかな。心配しなくても魔物しか出ないんだけど。なんか腕から柔らかい感触が伝わってくるのは役得ってやつなのかな。
「そろそろ着くよ。もうみんないるだろうしね」
「みんな?」
 ジュリアが不思議そうな顔をしている間に目的地の広い空き地に出た。

「遅いぞ師匠。何やってるんだよ」
 ボクたちが空き地に着くと待っていたワーウルフのライカが待ちくたびれたように言った。ジュリアは慌ててボクから体を離した。
「ごめん。道案内してたら遅くなっちゃってね」
 ジュリアは何も言えずにただ目を丸くしていた。そりゃいきなりこんな光景
を見たら驚くだろうな。
「今日はみんなに新しい仲間を紹介するよ」
 ボクの言葉にジュリアは我に返った。
「ヴァンパイアのジュリアですわ。よろしくお願いします。…ところでこれは何の集まりなんですの?面子を見れば大体想像がつきますけど」
 そりゃそうだろうね。リザードマン、アマ
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