孤児院

 それから適当に雑談していると馬車が止まった。顔に包帯を巻いた騎士が降りるように促してきた。こいつは今オレがどんな気持ちでいるのか知ってるのかねェ?
「ここが君たちの新しい家だよ」
 騎士の視線をたどるとそこには立派な建物があった。
「ここって孤児院かァ?」
「ああ。君たちと同じ境遇の子たちがいるから仲良くするといい」  
 へえ。他にもあんたらに家族を殺されたやつらがいたのか。本当に救いようがネェひどさだな。

「あたしたちと同じような境遇の子と一緒にして一体どうするつもりなのかしら?」
 ベルがヒソヒソ声で質問してきた。デビーとクリスも密かにオレたちの会話に耳を傾けている。
「同じよォな境遇の子供たちに会わせることで、殺戮を行う魔物を許すわけにはいかネェっていう正義感でも育てるつもりじゃネェのか?復讐心だけじゃ勇者になるための支えとしては弱いと思ったンだろォゼ。それに裏切らネェよォにする足枷にでもするつもりなんだろォよ」
「つまり人質というわけですか」
 デビーが怒りで顔を歪めた。かなり腹が立ってるみたェだな。
「つまり孤児院の人たちとはあまり親しくしない方がいいってことなの?」
 クリスも声を潜めて聞いてきた。
「それも1つの判断だな。あまり感情移入しネェ方が裏切る時に心が痛まネェし、人質としての効力もなくなるだろォからよォ」
 オレの言葉にベルとデビーとクリスは悲しそォな顔をする。さすがにそこまでは割り切れネェみてェだな。まァオレもそこまで本気じゃネェけどな。
「あくまで判断の1つだ。どォするのかはこれから決めることにしよォゼ」
 オレたちは騎士の後ろについて孤児院に向かった。

「あ、騎士様。久しぶりですね。そのケガはどうしたんですか?」
 かなり若い姉ちゃんが騎士を出迎えた。もしかしてこの姉ちゃんが院長か?
「少ししくじってね。今日はこの子たちの面倒を見てもらいに来たんだ」
 騎士の言葉に姉ちゃんはオレたちの方を見た。
「もしかしてその子たちも…」
「ああ。魔物に村を襲われたんだ」
 ケッ。自分でやっといてよくンなことが言えるな。その面の皮の厚さには恐れ入るゼ。
「またですか。なんで魔物はそんな家族を引き裂くようなことをするんでしょうね」
 この姉ちゃんは本当に何も知らネェみてェだな。演技でここまで悲しそォな表情ができるとは思えネェ。
「さあね。魔物の考えることなんてわからないよ」
 自分がやったくせによくンなことが言えたな。本当にムカつくなこの野郎。
「…辛い思いをしたわね。もう大丈夫よ」
 そう言って姉ちゃんはオレとベルとデビーとクリスをまとめて抱きしめた。
「ちょっ」
 オレの頭はなんだか柔らかいものに埋まっていた。
「私はヒルダ。これからは私があなたたちのお母さんになってあげるわ」
 その言葉を聞いた瞬間、オレの頭からは孤児院のやつらを見捨てるという選択肢は消えていた。

 それからすぐにオレたちの歓迎会が開かれた。オレたちが勇者パーティーだということを知ったらみんなが喜ンだ。オレたち以外のやつらは魔物が家族を奪ったと思い込み、魔王を倒すために旅立つ勇者を祝福してやがった。
「…裏切ったらここにいる子たちみんなを裏切ることになるんだね」
 クリスがベッドでそンなことをつぶやいた。勇者パーティーが離れることはないということでなぜか一緒の部屋になったンだよ。
「だからこそ裏切らネェといけネェンだよ。大事な者を奪っておきながら騙して都合のいいよォに利用するゴミ共を許すわけにはいかネェンだよ」
 ある意味教会には感謝しとくゼ。ここに来なけりゃオレたちはただ復讐に突っ走って自滅してただろォゼ。
「…彼らには真相を伝えなくていいんですか?」
 デビーはオレの目をまっすぐ見て言った。
「伝えた所であいつらは教会の返り討ちにあうだけだろ。真実を伝えていいことなンかネェよ」
「でも私たちが裏切ったら他の子たちも知ってると疑われますよ。どちらにしろ殺されるんじゃないでしょうか?」
 デビーの言う通りだ。教会に恨みを持つやつらを生かしておく理由がネェ。
「だったら襲われても助けられるよォにするだけだ。実はここの図書室でこンな物を見つけたンだ」
 オレは借りてきた本を見せた。それは『転移呪文の調べ』といういかにもな題名だった。
「転移呪文ですか。これになら助けられる呪文が載ってるかもしれませんね」
「でもそんな高度な呪文誰が覚えるの?」
 デビーとクリスの質問にオレは本をベルに差し出した。
「あたしが?」
「当たり前だろォが。お前は賢者として選ばれたンだぞ。勇者と騎士とシスターよりもいいだろォが」
 オレの言葉にベルはまだ迷ってるよォだった。
「お前ならできる。頼むぞ未来の大賢者」
 オレが頭に手を乗せてクシャクシャとなでるとベル
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