第二話 ジュリアの生態 

「きゃっ」
「おっと」 
 これでジュリアが転んだのは17回目だ。すぐに受け止めてるからケガはしてないけどさ。
「…ねえジュリア。そんなによくこけるのも日光のせいなのかい?」
「そ、そうに決まっているでしょう。太陽で身体能力が下がってるせいですわ。そうじゃなかったらわたくしがこんなにこけるわけないじゃないですか」
 その割には焦ってない?なんか怪しいなー。
「まあいいや。行くよジュリア…ってあれ?」
 隣を見てもジュリアの姿はどこにもいなかった。さっきまで一緒にいたはずなんだけど。
「ロキー!どこに行ったんですのー?!」
 後ろから声がしたから向かってみると、路地裏の深くで涙目になったジュリアを見つけた。あの一瞬でどうやってこんな所に迷い込んだんだろう。
「…ジュリア。もしかして君ってかなり天然入ってない?」
 ボクが聞くとジュリアはうっと息をつまらせた。
「…な、何か悪いんですの?」
 ジュリアは恥ずかしそうに言った。
「別に悪いなんて言ってないさ。ドジっ子っていうのも需要あるだろうし、個人的にも萌えるからね」
「も、萌えるって…。全然フォローになってませんわよ」
 言葉とは裏腹にジュリアの顔はニヤけていた。思ったよりわかりやすい性格をしてるみたいだね。

 ドジでダメな女の子が可愛いかどうかはひとまず置いておくことにしよう。それよりも問題はジュリアから目を離したら危なっかしすぎるってことだ。もし教会領とか反魔物領とかにさまよい出てたら今ごろ討伐されてただろうね。放っておいたらそんな所まで行っちゃう可能性がなくもないかもしれないけどね。はあ。少し恥ずかしいけどこれしかないか。
「ほら」
 ボクが手を差し出したらジュリアはきょとんとした顔をする。
「なんなんですの?」
「手を繋ごうって言ってるんだよ。はぐれちゃったりしたら危ないだろ」
 ジュリアは顔を赤くしてボクの手をじっと見た。そんな反応されると何か照れるね。
「し、仕方ありませんわね。これ以上ロキに迷子になられたりしたら困りますもの」
 ジュリアはためらいがちにボクの手を取った。迷子になったのはジュリアの方だってことはあえて言うことでもないよね。
「はいはい。それじゃ行くよ」
「はい」 
 ジュリアはボクの手をしっかりと握って歩き出した。

「これが人間の町の昼の姿なんですの?夜よりもにぎわってますわね」
 ジュリアはしみじみとして言った。
「今まで昼に町に来たことはなかったのかい?」  
「さすがに力が使えない状態で人が多い所に1人で行く気にはなりませんでしたの」
 ふーん。意外と考えてるんだ。
「今何か失礼なことを考えましたわね」
 ジュリアは拗ねたようににらみつけてきた。そんな目で見られてもかわいいだけだよ。
「キュー」
 …ずいぶんかわいい声で鳴く腹の虫だね。
「もしかしてお腹空いてるの?」
「な、何か文句ありますの?起きてから何も食べてないんだから仕方ないでしょう」
 そう言えばもう昼時だったね。楽なクエストだったけどさすがに何か食べといた方がいいかもね。
「どうする?どこか人目につかない所に行こうか?」
 さすがに周りに人がいるのに吸血するわけにもいかないよね。いくらここが親魔物領とは言っても絵面的にまずい。
「心配することはないですわ。別にあそこでいいですもの」
 そう言ってジュリアが指差したのは小さいレストランだった。味がいい上に安くてボリュームもあるから冒険者たちには大人気だ。ボクも情報交換とかクエストで組む冒険者との待ち合わせとかによく使わせてもらっている。
「ヴァンパイアの食料って人間の血じゃなかった?」
 正確には人間の精だったはずだ。どうやら精液と同じように血液にも精が含まれているらしいよ。そんなこと言われてもあまりピンと来ないけどさ。
「生きたり力を使うために最小限必要なのが血ってだけで普通の食べ物も食べますわよ。そうじゃなかったら人間がいない魔界ではどうするって言うんですの?」
「他のヴァンパイアの召使いの人間からもらったりするんじゃないの?」
 普通ヴァンパイアは気にいった人間を召使いにして住みかに連れ帰るんじゃなかった?ジュリアみたいにパートナーになろうなんて言わないはずだ。
「ヴァンパイアは意外と独占欲強いんですの。手を出したりしたらどうなるかわかったものじゃありませんわ。それに他のヴァンパイアの未来の夫に手を出すほど落ちぶれてませんもの」
 どうやらヴァンパイアの世界にも複雑な事情があるみたいだ。ジュリアといて初めてわかることは本当に多い。
「つまりボクが他のヴァンパイアに襲われることはないってわけか」
「―――っ。と、とにかく行きますわよ」
 ジュリアは顔を朱色に染めながらボクの手を引っ張った。

「ようロキ。今日はどんな魔物を連れ
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