リャナンシー泣かせ

「瞳の中ー映る世界ーあふれそうなー悲ーしみでも♪」
 適当な歌を口ずさみながら筆を走らせる。なんとか気を紛らわせないと筆が震えて描けないのよね。…隊長さんのおかげで一応は落ち着いたけど。
「…まだ自分で『リャナンシー泣かせ』なんていう大それた異名を名乗らないといけないとやってられないレベルだけどね」
 なんでも私が書いた絵を見て感動したリャナンシーが、作者がアリスだって聞いて嘆くからそう名づけられたみたい。私はただ見て覚えたままを書いてるだけなんだけどね。
「…まあレズなリャナンシーは寄ってくるから少しは自信を持ってもいいのかもしれないけどね」
 そんな非生産的なリャナンシーが本当にいるのかって?実際にいるんだから仕方ないじゃない。本人は1人の創作家に一生縛られたくないとか言ってたけどどこまで本当なのかはわからないわ。私の他にも付きまとわれてる人がいるのは事実みたいだけどね。
「うーん。こんなものかしら」
 とりあえず覚えてた特徴とかはこれで描けたわね。私は扉の前で待っているノルレ先生たちを呼んだ。

「それで、描いた絵は?」
 隊長さんが冷静に尋ねてきた。
「これよ」
 私が絵を差し出した瞬間絵が手元から消えた。
「へえ。こいつらが君を襲った犯人か、ロゼ」
 そう言ってあいつは冷たい笑みを浮かべた。
「ふーん。来てくれたんだ、ロキ」
「もちろん。まあボク1人じゃないけどね」
 そういうロキの後ろにはヴァンパイア、ドラゴン、それにバフォ様がいた。ロキと一緒にいるってことは多分ベントルージェのコゼットね。
「ずいぶん派手なメンバーね。勇者でも倒しに行くの?」
 私の言葉にロキはニヤリと笑った。
「勇者ごときにこのメンバーじゃ過剰戦力すぎると思うよ。あの有名な『悪逆勇者』ならどうだかわからないけどさ」
 確かに『悪逆勇者』ならわからないわね。今は魔王軍の幹部をやってるから関係ない話だけど。教会もまさかあんなのが旅立って最初の軍についてすぐに裏切られるなんて夢にも思ってなかったでしょうね。

「なあノルレ。なんでロゼは普通に流してるんだ?」
「慣れだな。あれくらいで驚いてたらロキとはやっていけないぞ」
「なるほど」
 隊長さんはそう言いながらも冷静だった。この人が慌てることなんてあるのかしら?
「あんたがロキか。おれは衛兵隊長のバルド=ネルドだ」
「ああよろしく」
 隊長さんはそう言いながらロキと握手した。
「わたくしは妻のジュリアですわ」
「愛人のキサラです」
「妹のコゼットなのじゃ」
 …ロキ。あんたどれだけ魔物を落とせば気がすむのよ。いくら何でもやりすぎじゃない?
「…『魔物キラー』の異名はダテじゃないみたいだな。それより絵を見せてくれないか?」
「もちろん。はい」
 ロキは全く悪びれずに絵を渡した。勝手にとっといてなんでそんなに偉そうなのかしら。
「…すごいな。さすが『リャナンシー泣かせ』を豪語するだけのことはある」
 隊長さんが感心したような口調で言った。なんか照れくさいわね。
「…あんまりその名前で呼ばないでくれる?あの時はテンションがおかしかったのよ」    
「…すまない」 
 隊長さんは察したのか謝ってきた。
「別に気にしなくていいわよ」
「そう言ってもらえると助かる」
 そう言って隊長さんは絵をじっと見た。
「本当によく描けてますね。ロリなだけじゃなくて絵もうまいなんてすごいと思いません?」
 ロキは隊長さんに軽く視線を向けた。
「…副長でスーザンサバトに入っているチャーリー=ウィーゼラだ」
 それを聞いたスーザンがキラリと目を光らせた。
「ほう。若いのに見所があるではないか」
「バフォ様にそう言ってもらえて光栄です」
 …そんなことを言いながら2人は適当に話し始めた。もう放っといてもいいわね。

「…それにしてもこのハンマーを持ってる筋肉ダルマどこかで見たことあるような気がするんだよねー」
 絵を見ていたロキが不意にそんなことを言い出した。
「奇遇だな。オレもこの陰険そうなメガネ見たことがあるような気がする」
 ノルレ先生もそんなことを言い出した。
「…もしかして仕事上の関係なのかもな。チャーリー。この絵を印刷して町に張り出すように指示しておいてくれ。それと冒険者と学者を中心に聞き込みも頼む」
「はい!」
 そう言ってダメ副長が病室から出て行った。
「ねえ、ボクにも何か手伝えることない?」
 それを聞いた隊長さんがロキをにらみつけた。
「…まさか殺すつもりか?」
「まさか。せいぜい再起不能になるまで心身を痛めつけてから突き出すだけだよ。何ならすぐに自白したくなるような拷問をしてあげてもいいけど?」
 そういうロキの口調はどこまでも冷たかった。私があんなことになって相当怒ってるみたいね。
「…ダメだ。捕まえた時点
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