「う、ん。…ここは?」
こういう時は「知らない天井だ」、とでも言った方がよかったかしら?実際に気を失ってから起きる時にそんなことを言う人がいるとも思えないんだけど。
「見た所病院みたいだけど…」
つまり気を失っている時に運ばれたってことね。一体何があったのかしら?
「患者の意識は戻ったか?」
「どうでしょう?見て来ますね」
誰か来るみたいね。とりあえずいつものキャラを演じる準備をしといた方がいいわね。何があったかは話しながら思い出していけばいいわ。
――――――ー―――ー―――――――――――――――――――――――
「隊長!被害者が目を覚ましました!」
書類に目を通していると隊員が入って来た。
「わかった。チャーリー、お前も来い」
おれは仕事を速攻で片付けた。本気を出せばこれくらい造作もない。
「了解!」
おれはチャーリーと一緒に隊舍を飛び出した。
「…ロゼちゃんは事件のことを覚えてるんでしょうか?」
走りながらチャーリーが聞いてきた。
「…わからない。どっちにしろあまりいいことではないのは確かだ」
おれの言葉にチャーリ−は複雑そうな顔をした。
「…そうですね。覚えてたらロゼちゃんにショックが残りますし、覚えてないと犯人の唯一の手がかりを失うことになりますからね」
珍しく冴えてるな。ノルレが来た時に言ったから覚えてるだけなのかもしれないが。
「まあまずはロゼに会ってみよう。話はそれからだ」
「そうですね」
そんなことを話し合いながらおれたちは病院に向かった。
病院についたおれたちは医者に許可をもらってからロゼの病室に入った。
「お兄ちゃんたち誰?」
ロゼが視線をこっちに向けて尋ねて来た。
「衛兵隊長のバルド=ネルドだ」
「副隊長のチャーリー=ウィーゼルだよ。よろしくね」
おれたちが自己紹介するとロゼはにっこり笑った。
「私はロゼだよ。よろしくね隊長さん、副隊長さん」
そういうロゼはとても無邪気なように見えた。でもおれはなぜか子供っぽく見せるように演じているように感じた。ノルレに言われたから変な先入観があるのかもしれないが。
「ねえロゼちゃん。なんで入院することになったのか覚えてる?」
チャーリーの言葉にロゼは目を閉じて考え込んだ。
「…わかんない。だって私アリスだもん」
チャーリーは安堵と落胆が混じり合ったような複雑な表情を浮かべた。
「そうなんだ。もし何か思い出したことがあったら言ってね」
「うん。わかったー」
ロゼはそう言ってうなずいた。
「起きたばかりで長話するのも疲れるだろうから今日はここらへんで帰る。それじゃまた明日」
「うん。またねー」
ロゼの声に送られながらおれたちは病室を出た。
「どうやらロゼちゃんは事件のことは忘れてるみたいですね」
病室を出たチャーリーはそう言って声を潜めた。
「そうみたいだな」
そう言いつつおれはロゼの言葉に激しい違和感を感じていた。もちろんノルレに猫を被っている時の言葉を真に受けるなと言われたっていうのもある。しかしそれ以前に何か根本的に見落としているような気がする。
「だがおれたちだけで判断するのは早すぎるだろう。まずはノルレにも相談してみないとな」
おれの言葉にチャーリーは少し考え込んだ。
「…そうですね。ロゼちゃんがウソをついてるとも思えませんけど専門家に意見を聞くことも必要なのかもしれません」
チャーリーも少しは冷静になってきたみたいだな。もしかしたら被害者幼女ばかりだから気合いが入ってるのか?
「そういうことだ。チャーリー、ノルレの家がどこにあるかわかるか?」
「…すいません。そこまではわかりません」
チャーリーは申し訳なさそうに言った。まあ予想はできてたがな。もし住所がわかってるなら今までノルレに会ったことがないなんてことはないはずだからだ。ノルレのファンなら普通に押し掛けてサインをもらうなりなんなりしてるはずだからな。
「それじゃ隊舍で住所を調べてからいくぞ。話はそれからだ」
「わかりました」
おれたちは隊舍に向かって走った。
つづく
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