人々が寝静まった深夜。おれ様は舎弟と2人で人気がない道路を歩いていた。
「ア、アニキ。こんな時間に出歩いてたらやつが出るっスよ」
一緒にいる舎弟のトムが震えながら言ってきた。」
「バーロー。それがおれ様たちの目的だろうが」
おれ様の言葉にビルは青ざめた。肝っ玉小さすぎだろ。
「も、もう帰った方がないんじゃないスかアニキ」
「バーロー。こんな報酬がいいクエスト降りるわけにはいかねえだろ。それに依頼主はあのロキ先輩の兄貴のノルレ先生だぞ。ただ怖いって理由であの人とパイプをつなぐチャンスをみすみす逃してたまるかよ」
トムはあきらめて目を伏せた。これ以上何を言ってもムダだって悟ったんだろう。
今回おれ様ビリー=ゲイオルグが受けたクエストは、このシャンビルの町のウワサについて調査することだ。なんでも真夜中になると男が逆レイプされるらしい。1日に2人以上は確実に犯されるんだってよ。襲われたやつの首には何かにかまれたような跡があるらしい。そんな話を聞いたロキ先輩の兄貴で魔物学者のノルレ先生が興味を持って依頼を出した。それをおれ様がベントルージェに向かう途中で立ち寄ったフィアボルトの冒険者ギルドで見つけたってわけだ。とりあえずクエスト受けて経験増やそうと立ち寄ったら意外な掘り出し物を見つけちまった。報酬も高いし、駆け出しでロキ先輩と組んで名を挙げるチャンスもある。
「それにしても結構襲われた人多いっスね。それに何回も襲われてるやつもいるらしいっス」
「つーかそいつらわざと襲われてるんじゃねーのか?話を聞きつけてこの街にやってくるやつも多いらしいぞ」
おれ様の言葉にトムは呆れたように溜息をついた。
「この街にはどれだけ変態が集まってるんスか…」
同感だな。こんな時間にうろついてまで襲われたがるどんなドMだよ。
「ふーん。自分たちもこんな時間にうろついてるくせにそんなこと言っちゃうんだー」
おれ様たちはすごい勢いで後ろを振り向いた。そこには1人の女がいた。1人とは言ったけどどう見ても人間じゃない。紫色の肌、燃えるような赤毛、ひどく充血したような真っ赤な目、血で染められたように真紅色の鋭く尖った牙と爪。そんな怪しさが逆に美しさを際立たせている。その身には純白のドレスをまとっていた。
「あ、あんたがウワサの…」
「あら、もしかして私って有名なの?」
そう言って首を傾げた。おれ様はなぜかその姿にキュンと来てしまった。なんなんだよこの感覚。もしかしてこれが一目ぼれやつなのか?
「ああ。あんた目当てに他の所から人が集まってるらしい。それにわざと何度も襲われてるやつもいるしな」
おれ様の言葉に彼女は嬉しそうに笑った。
「変態が多いわねえ。まあそのおかげで食事がしやすいんだけど」
食事?道で人を犯すことが?この女もしかしてサキュバスとかなのか?だとすればこいつを見てるだけであそこが立ってきてるのはまさか
「み、魅了の呪文って…わけっスか」
トムが息を荒げながら言った。
「やっと気付いたの?まあ意外と持った方だと思うけどね」
そう言って女はトムの方に向かって行った。
「や、やめろ!おれ様には何してもいいからトムには手を出すな!」
「あ、アニキ…」
トムは震えながらおれ様の方を向いた。
「何自分だけいい思いしようとしてるんスか!」
トムがおれ様のことをにらみつけてきた。ハハハ、ナンノコトヤラ。
「ば、バーロー。おれ様はお前のことを思ってだな」
「ウソっス。明らかに後回しになるのが気に入らなかっただけ」
トムはそこで言葉を切って眠り込んだ。女が眠りの呪文をかけたからだ。
「しばらく黙ってなさい。安心していいわよ。夢を見ている間にヤってあげるから」
うるさすぎて眠らされたか。哀れだなトム。それはどうでもいいけどこれじゃおれ様が襲われた様子を報告することになるな。そういうめんどいのはトムに任せておきたいんだけど。まあちゃんとやるけどさ。報酬が上乗せされるからな。
「それじゃ…いただきまーす♪」
女はいきなり首筋にかみついてきた。
「うっ」
なぜか痛みは感じなかった。それどころかものすごい快感を感じる。魔力でも注ぎ込まれてるのか?とりあえず首にかんだ跡があった理由がわかった。ちなみにおれ様がここまで冷静なのは魔物が人を殺すことはないのを知ってるからだ。おれ様は騙されてる反魔物領の出身でも、勇者とかほざいてる勘違い野郎でもないんでね。
「ごく、ごく、んっ。まあまあね」
吸われて貧血になるような感じにも何か快感を感じる。吸血する時に魔力を注ぎ込んで、味の評価ができるほど血を飲みなれてる。思い当たる魔物と言えば
「あ、あんたもしかして…くう」
ヴァンパイアか?そう言おうとした瞬間なんだか吸う勢いと快感が強くなったような気がした。
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