「ぐっ、痛っ」
体が痛い。足を滑らせて崖から落ちたからだ。くっそ。ムリして父さんに頼まれた薬草を取ろうとするんじゃなかった。
「うぐ」
動こうとしたけど力が入らない。体からどんどん血が流れてる。
「おれ、死ぬのかな…」
子供だから死ぬことなんて全く考えたことがなかった。まだまだやりたいこともたくさんあるし、人生はこれからだと思ってた。そんなことを考えているうちにも目の前がかすんできた。
「せめて彼女くらいは欲しかったな…」
目の前が真っ暗になった。
なんだか体が温かい。優しい何かに包まれているような気がする。
「…ん」
うっすらと目を開けると、なんだか柔らかい光が見えた。その光は小さな星の模様がある先がとがったものから出ているみたいだ。もしかして角か?
「よかった。これなら大丈夫ね」
優しそうな女の人の声が聞こえてきた。うっすらと白い馬に乗った女の人のような姿が見えた。ぼんやりとしか見えないけどなぜかきれいだと感じた。地獄には見えないからどうやら生きてるようだ。天国に行ったという選択肢はないのかって?主神を心の底から嫌いなおれがそんな所にいけるわけがない。もしあんなのの所に召されることになったら猛毒を盛ってやるか、しびれ薬を飲ませて永遠に使うことがないムダなアレを切り落としてやる。
「安心してねかわいいぼうや。安全な場所に連れて行ってあげるからね」
おれは抱き上げられる感覚に安心して目を閉じた。眠くなるときなんだか揺れるような感覚がして、ひづめの音が聞こえてきた。馬にでも乗せてもらってるのか?そんなことを考えながらおれは気を失った。
「う、ん」
気がついたらおれは森の開けた場所にいた。あのお姉さんが運んでくれたんだろう。
「お姉さんは?」
周りを見回してもお姉さんはもういなかった。起こしたら悪いと思って気をつかったのかもしれない。
「お礼言えなかったな…」
助けてもらったんだからありがとうって言いたかった。
「また会えるといいな」
もちろん感謝の気持ちを伝えたいのもある。でもそれだけじゃなくてお姉さんに対するわけがわからない気持ちもあった。おれはなんだかわからないもやもやを抱えながら家に帰った。
「「ユニコーンだね(な)」」
おれの話を聞くとヴェーデルシュルグ兄弟は即答した。
「ユニコーン?それってどんな魔物なんだ?」
おれは魔物のことはあまり知らない。まあこいつらがくわしすぎるだけかもしれないけどな。大人に聞いても夢とか知るわけないっていう答えしか帰ってこなかった。
「ケンタウロスの一種で白い毛並みと角が特徴な魔物だ。角には強い魔力が宿っていて、すごい回復呪文が使えるんだ」
そう答えたのはノルレ=ヴェーデルシュルグ。身体能力は並み程度だけど魔術の腕と魔物に関する知識は村の大人たちよりすごい。将来の夢は魔物学者らしい。きっとすごい学者になるだろう。
「そうか。光を放ってた星型の模様があるとがったものはユニコーンの角だったのか。ついでに言うとおれは馬に乗せられたんじゃなくて背中に乗せられたんだな」
「多分それで合ってると思うよ。それにしてもオーディウスはなんでボクたちに聞いてみようと思ったの?」
ニヤニヤ笑いながらそう言ってきたのはノルレの弟のロキだ。こいつも魔物にくわしい。パワーは普通だけどすごいスピードと反射神経を持っていて、武器の扱いがかなりうまい。軽いけどかなり腹黒くて、敵だと判断した相手には容赦しない。まあ基本的には優しくて、面倒見がいいけどな。触らぬ神に祟りなしってことかもしれない。
「そ、それは助けてもらったお礼を言いたいからに決まってるだろ」
「本当にそれだけ?会って仲良くなりたいとかいう下心くらいはあるんじゃない?というか話を聞く限りどう考えてもそのお姉さんのことが好きになったとしか思えないよ」
おれはロキに何も言い返せなかった。他にお姉さんへのよくわからない思いを言い表せる言葉がなかったからだ。
「それにしても初恋の相手がユニコーンねえ…」
ロキはなぜか考え込んだ。
「何か文句あるのか?」
「別に。ただ初恋を実らせるのは大変だろうなって思っただけだよ」
ロキはめずらしく真剣な顔をした。
「なんでそう言えるんだ?」
おれの言葉にロキとノルレはしばらくアイコンタクトをかわした。
「…ユニコーンは好きになって夫として認めたやつにしか体を許さない。しかもユニコーンが好きになる男にはある条件があるんだ」
「ある条件ってなんだ?」
ノルレはなぜか顔を赤くして口ごもった。
「あー、魔物がよくやるアレをヤったことがない人だよ」
ロキが少し恥ずかしそうにつぶやいた。
「でもおれのお姉さんが好きだって気持ちは本物だ」
「今はそうでも将来他に好きな人ができるかもしれないよ
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