出会いを呼ぶエンゲージリング

 階段を降りていたら今までとは違う空気を感じた。
「はあ。どうやらここが最深部みたいだね」
 本当にこのダンジョンはめんどくさかったよ。トラップが多かったし、つぼまじんやミミックがかなりいた。しかも王の墓でもないのにスフィンクスまでいる始末だ。今まで名のある冒険者が挑んで帰って来れなかっただけのことはある。どんなに力があってもミミックとかつぼまじんに引っかかったり、スフィンクスの問いかけに答えられなかったりしたら対処できないだろうね。ボクもかなり難易度に見合っただけの宝はあったけどさ。
「一体このダンジョンの主はどんな魔物かなーっと」
 ボクはそんなことを考えながら階段を降りた。

 階段をおりた先にいたのは下半身が蛇のきれいな女の人だった。体からはかなり大きな魔力が出ているみたいだね。
「…なんでよりによってエキドナなわけ?」
 エキドナ。人間に変化できるほどの魔力を持つラミアの上位種だ。色んな魔物を産むから「魔物の母」って呼ばれている。
「うーん。どうしようか」
 ボクはコートの中に隠した武器を探りながらつぶやいた。できればあまり戦闘はやりたくない。いまの実力じゃエキドナを殺さずになんとかするのは難しそうだからね。だから逃げたいんだけど見逃してくれるかどうか不安だし
「くー」
 そんなことを考えていると寝息が聞こえてきた。
「…寝てるの?」
 近づいてみるとよだれをたらして寝ているのがわかった。
「いくらなんでもマイペースすぎるんじゃない?」
 とりあえず警戒はしつつ何かないのか確かめる。すると小さな箱が目に入った。
「中には何が入ってるのかな?『透視』」
 魔法で覗いて見ると指輪らしき物が入っている。
「『見えざる手』」
 魔力で箱を開けて、指輪がよく見える位置まで飛ばしてきた。
「これってもしかして…」
 エキドナの姉さんの左手の薬指を確かめると同じ指輪がしてあった。
「意外とよく考えてるのかな?でも詰めが甘すぎじゃない?」
 ここまで来るほどの頭をもつ人がこんなのに引っかかるとは思えない。でもどうしようかなこれ。わかってるのに引っかかる気にはなれないし、かと言ってここにたどりつくことができる人がそこまでいるとは思えない。このエキドナのお姉さんが寝てるのは長い間誰も来てなくて油断してるからだろうしね。理想の人が来ないかもしれないっていうあきらめとも言えるかもしれないけどさ。
「あっ、いいこと思いついちゃった」
 ボクはエキドナの姉さんが起きないように気をつけながら準備を進めた。

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 適当に調べ物をしてると、ドアがノックされた。
「どうぞ」
 オレが声をかけると借りている宿屋の娘さんがいた。 
「ノルレ先生。郵便が届いてますよ」
 そう言って小さな箱と封筒を渡された。
「どうも。誰から?」
「弟のロキくんからみたいですよ」
 娘さんはロキの名前を覚えたみたいだ。まあ何度か手紙とか届いてるから覚えるのも当たり前か。
「あいつからか。いつものように好き勝手してるんだろうな」
 オレの言葉に娘さんはクスリと笑った。
「仲いいんですね。ロキくんって一体どんな子なんですか?」
 別に仲いいわけじゃないんだけど。
「一言で言うとオレとは正反対のやつかね。オレが魔術ならあいつは武器、オレがインドア派ならあいつはアウトドア派、オレが思考型ならあいつは直感型と言った具合だよ。現にオレが魔物の情報を集めて分析して理論を組み上げる学者で、あいつが魔物と実際に関わっていく冒険者だ。まああいつが持ってくる情報はオレの研究の役に立つし、オレの研究があいつの役に立つこともあるけどな」
 娘さんは首を傾げた。
「ノルレ先生の研究対象って珍しい魔物とか特殊な魔物ですよね。そんな魔物に会う機会ってあるんですか?」
「あいつが知り合う魔物はたいてい変だよ。オレがこんな分析してたとか言う話の種くらいにはなると思うけど」
 娘さんはクスクス笑った。
「そういうものなんですか。それじゃ私はそろそろ仕事に戻りますね」
 娘さんは手を振って部屋を出て行った。

 封筒の中には適当に安否を気遣かってるぽい手紙と、なんか色んな問題が書いた紙が入っている。問題は空いた時間に解いておくか。そんなことよりこの小さな箱が気になるな。一体何が入ってるんだ?とりあえずついてる手紙を読んでみようか。なになに、『ダンジョンで見つけたんだけどおもしろそうだから送ってみたよ。兄さんなら何かわかるんじゃない?』。
「かなり怪しいな」
 今までロキがおもしろそうって言ってろくな目に合った試しがない。でも気になることは気になる。こういう好奇心を失ったら学者として終わりだと思う。まあ少なくとも死ぬような類のものじゃないだろうし
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