第九話 インキュバス化

 ブラドはくんずほぐれつしながらサラさんに絡まった糸をほどき終えた。まあなんとかクリアシーのライブには間に合いそうだからいいけどさ。それになかなかいいものも見れたしね。
「お主とは気が合いそうじゃな。これなら安心してジュリアを任せられる。苦労をかけると思うがよろしく頼むぞ」
 エルザさんが手を差し出してきた。
「もちろん。どんな時でもジュリアを守り、絶対に悲しませないと誓いますよ」
 ボクはエルザさんと固く握手した。ブラドは鼻を鳴らした。
「フン。ジュリアのために命を捨てる覚悟はあるんだろうな」
「命を捨てたらジュリアが悲しむからしないよ。必ず生きて帰ってくることは誓うけどさ」
「たとえどんな手を使ってもですか?」
 サラさんがボクの目をじーっと見て聞いてきた。
「当然だよ。サラさんにやったみたいにね」
 ボクの言葉にサラさんはあきれた顔をした。
「よく言いますね。あなたが幻術や暗器を使うのは相手を必要以上に傷つけないようにするためでしょう?本当なら最初の一撃で重傷を負わせることもできたはずですからね」
 気付かれてたんだ。なかなか鋭いね。
「やっぱり甘いですわね。まあそれもロキのいい所だと思いますわ」
 ジュリアは苦笑しながら言った。喜んでいいのかいまいちよくわからない。
「ふむ。そろそろ帰るとするか。また来てよいか?」
「ええ。いつでもどうぞ」
 ボクが答えるとエルザさんは微笑んだ。
「そうさせてもらおう。早く孫の顔を見せてもらいたいものだなむ・こ・ど・の」
「なっ」
「それではさらばじゃ」
 ジュリアが赤くなって固まっている間にエルザさんは手を振ってサラさんとブラドを引き連れて帰っていった。
「全く。本当にお母様には頭を悩まされますわ」
 ジュリアはそう言いつつも微笑んでいる。
「まあいいお母さんじゃん。ボクとも気が合いそうだし」
「…そうですわね」 
 ジュリアは肩をすくめた。
「まあともかくバーに行こうか。急がないと始まっちゃうよ」  
「そうですわね。急ぎましょう」
 ジュリアは走って行ってしまった。
「はあ。そこまで急ぐことないのに」
 ボクはジュリアの後を追うことにした。

 クリアシーのライブを聞いた後ボクたちは部屋に戻った。
「今日は色々と大変でしたわね」
 ジュリアは疲れたように言った。
「そうだね。ボクもけっこう疲れたよ」
 一撃しか食らわなかったけどそれでもかなり体力を消耗した。長引いてたらまずかったかもね。半ヴァンパイアに体力で勝てるとは思ってないよ。
「大丈夫ですの?体調が悪いようなら今日の吸血は遠慮しておきますわよ」
 ジュリアが心配そうな顔で見つめてきた。
「心配してくれるのはうれしいけどちゃんと食事はとらなきゃダメだよ。遠慮しないで飲みなよ」
 ジュリアは一瞬ためらった後恥ずかしそうに目を向けてきた。
「それではお言葉に甘えさせていただきますわ。はむっ」
 ジュリアはいつものように首筋に噛み付いてきた。魔力のおかげで痛みじゃなくて快感が伝わってくる。
「んっ、ちゅるるる」
 やっぱりなんだか興奮してくるね。もうほぼ慣れてきたけどさ。そう思っていた時心臓がドクンとなった。
「ぐっ」
 何今の感覚?
「じゅるり、どうかしましたの?」
 ジュリアが血を吸うのを中断したら鼓動がおさまった。気のせいかな?
「いや、なんでもない。続けていいよ」
「そうですか。じゅるるるる」
 血を吸われるとまたドクンとしだした。もしかして吸血が原因なのかな?
「うっ」
 でも今までこんな感覚になったことないよ?何か体に起こってると思ったほうが自然だ。……思い当たることが1つしかないんだけど。
「…早くない?」
「ちううう。何がですの?ちゅううう」
 そう言うジュリアは魔力を流し込み続けている。その間にも鼓動が早くなってきた。
「…すぐにわかるさ」
「はふん。そうですか。じゅるるるる」
 ジュリアはあまり気にしてないみたいだ。どっちかというと吸血のせいで頭がとろけてるのかもしれない。そしていつものように必要な分だけ飲んで口を離した。

「は、あ。やっぱりおいしいですわね」
 ジュリアは恍惚とした表情をしている。いつものように快楽抑制呪文でも使った方がいいのかと思った時心臓が大きく収縮した。
「くっ」
 鼓動が大きくなるたびに体中に変な感覚が広がっていく。多分これまでジュリアに注ぎこまれた魔力があふれ出して全身に回っていってるんだろう。
「どうしたんですかロキ?!やっぱり調子わるいんですか?」
「くうっ。来るべきものが来ただけさ。ここまで早く来るとは思わなかったけどさ」
 多分原因は吸血トレーニングじゃないかな。普通より多く魔力が注ぎ込まれるから進行が早くなったんだろう。
「くうう」
 ジュリアから注がれた魔力が体の表面を
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