ロキが連れてきたのはベントルージェ領西の荒野ですわ。ここなら誰も巻き込むことはありませんわね。北の森や東の海辺だとどこに魔物がいるかわかりませんもの。
「それじゃここでやろうか。準備はいい?」
「いつでもいいですよ」
サラはロキをにらみつけてますわ。対するロキはいつもの余裕を崩してないですわ。その自信は一体どこから来るのか知りたいですわ。
「その前に戦いのルールはどうするんですの?」
「そうじゃな…。何をしてもよいからどちらかが降参するか、体が動かなくなるまでということにしようかの」
さすがお母様。いい考えだと思いますわ。
「ボクはそれでいいよ。サラさんは?」
ロキが話を振るとサラもうなずきましたわ。
「私もその条件でいいです」
2人の言葉にお母様は満足そうにうなずきましたわ。
「それでは…始め!」
「『氷の矢』」
お母様が宣言した瞬間ロキが呪文を唱えましたわ。サラは向かってきた氷の塊をなんとか避けましたわ。
「貴様!いきなり攻撃するのは卑怯だぞ」
「戦いに卑怯も何もないよ。現にエルザさんも何をしてもいいって言ったじゃん」
ブラドの言葉にロキは冷静に返しましたわ。そういうことは言われなれてますから当然ですわね。
「そっちがそのつもりならこっちも手加減しません。『黒炎弾』」
サラの手から大きな炎が飛び出ましたわ。ロキはなぜか全く動こうとしてませんわ。
「『地獄の名を冠する魔剣よ…。我が呼び声に応え、秘めたる力を解き放ちたまえ…』。…行くよ、ヘル」
ロキは言葉をつぶやくと背中の剣に手をかけましたわ。あの剣は確か自分の大切なものを守るために抜くと言ってましたわね。そこまでわたくしのことを…。ってそれはともかく避けなくていいんですの?そんなことを思っているとロキは剣を振りましたわ。
「フッ」
わたくしは自分の目を疑ってしまいましたわ。ロキを襲った炎の球が剣に触れたとたんに掻き消えてしまいましたの。
「なっ。なんだその禍々しい剣は?!」
ブラドが言う通りその剣からは邪気とか妖気とかいう類の物が立ち上ってますわ。こんないかにも呪われてそうな剣をアムルが作ったって言うんですの?
『レディに向かって禍々しいなんて失礼しちゃうわ。乙女心がわからない男は嫌われるわよ』
突然頭の中にそんな声が響きましたわ。この声ってまさか…。
「あんまり刺激しないでよね。今機嫌悪いんだから」
『主があたしを使ってくれないからでしょうが!さびしかった…わけじゃないけどかなりストレス溜まってたんだからね』
「ごめんね。下らない相手の血で汚したくなかったんだ」
『…ふ、フン。そういうことなら許してあげるわ』
「ありがとう。それじゃやろうか」
『せいぜい楽しませてよね!』
あの剣喋れるんですの?正確に言えば思念波みたいなもののようですが意思を持つ武器なんて見たことがありませんわ。
「剣に魂が宿っておるな。おそらく名工が作った渾身の一振りじゃろう」
すごいですわねあの娘。サイクロプスであるということを抜きにしてもアムルの腕は想像を絶してますわね。
「い、いくら武器がすごくても使ってるやつの力が足りないと意味ないぞ」
『なんですってー?!』
ヘルが殺気を向けるとブラドはすっかり怯えてしまいましたわ。戦闘経験がない人間だから仕方ないかもしれませんわね。
「落ち着きなよ。言いたいやつには言わせておけばいいんだから」
『わ、わかったわよ』
ロキが刃と柄の境目近くの宝玉を撫でると落ち着いたみたいですわ。
「来ないならこっちから行かせてもらいます。『魔閃光』」
かなり速い閃光がロキに向かっていきましたわ。そしてそのままロキの体を通り抜けましたわ。
「フン。口ほどにもな―」
その瞬間後ろからロキが現れてサラの右腕を切りつけましたわ。
「なっ?!」
サラは痛みに顔をゆがめつつロキから距離をとりましたわ。
「ば、バカな。さっき貫かれたはず」
ブラドが目を向けたほうにはもうロキはいませんでしたわ。だからわたくしは体を通り抜けたって言ったんですの。
「なんなんですか今の感覚。まるで力が吸い取られるような…」
サラは腕を押さえながら首をひねってますわ。精神が宿ってるくらいだからどんな力を持っていてもおかしくないですわね。
『なかなか力の質がいいわね。さすが半ヴァンパイアだわ』
力の質がいい?
「もしかして力を吸い取ったんですか?」
『その通り。これこそがこの魔剣ヘルの刃に宿る力よ。さっき魔法を飲み込んだのも使われた魔力を吸い取ったからよ』
頭の中に得意げな声が響いてきましたわ。
「そうやって自分の力を明かすのは敗北フラグだよ」
『あっ。…だ、大丈夫よ。勝負してるのはあたしじゃなくて主でしょ』
なんか動揺してますわね。
「いつまで漫才やってるんで
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