その日、ある集落で集会が開かれた。
近況報告にはじまり、集落で暮らす際の注意事項、時勢における集落の方針などなど、抽象的かつ生産性のない議題でも真剣に行われる。集会の内容以外に、集会を開くことで集落に住む住人同士の親睦の場とし、住人の団結力を高める………それが表面上のものであっても、そのような場であるべきだとシェリルは考えていた。この森の集会に参加する前までは。
集会が開かれたのは集落のなかにある、一際大きな樹木に乗っている小屋で行われた。集会に参加している者達は異形の身体の持ち主で、頭から獣の耳なり角なり生えているか、肌の色が異色だったり、尻尾があったりすれば、足の無い者までいる。
唯一、共通していることをあげるならば『女』であること。そう、つまりこの集会は―
(いわゆる魔物娘の『女子会』といったものか…)
連絡事項もそこそこに、その場は男子禁制のお喋りの間と成り果てた。いつの間に用意されたのやら、目の前には物凄い量のお茶菓子が山盛りに置かれている。周囲から漏れるお喋りに聞き耳を立てれば、意中の男の話にはじまり、恋愛相談、精のつく食材・料理の作り方、愛する夫との夜の営みから、子作り、好きな体位、感じる体位…と、どこかしら猥談じみた話ばかりである。
(うぅ…帰りたい。アレックぅ…)
心中で泣きが入るシェリル。愛しいその名を呼んでも、願いが叶わないことも自覚している。
シェリルは魔物化こそはしたがエルフとしての名残りか、あるいはシェリル自身の性格からか、性的な話となると途端に奥手となる。今も顔と長い耳を真っ赤にさせて下に俯き、集会という名の女子会が終わるのをただただ耐えるばかりである。そんなシェリルに囁く一匹の淫魔…もといエルフがいた。
「ねぇ〜ん、シェリルちゃ〜ん♪どぉしたのぉ〜?お酒が入ったみたいな、お顔になってぇ〜♪」
「い、いや大丈夫だ。わ、私に構わず続けてくれ…」
「そぉ〜ぉ?でもねぇ〜、シェリルちゃん?さっきから全然お話してくれないしぃ〜♪もしかして、つまぁんないのぉ〜?」
「そ、そんな事は無いぞ!わ、私から話したい事がないだけだ…」
「そ・れ・な・らぁ♪私からひとぉ〜つ、シェリルちゃんに聞いても良いぃ〜?」
「わ、私で答えられる範囲でなら…」
「大丈夫♪とぉ〜っても簡単なことだからぁ〜♪」
「………言ってくれ」
「そんなに緊張しなくてもぉいいのよぉ?ちょ〜っと、シェリルちゃんとアレック君の、ふたりの馴れ初めを聞きたいだけなのよぉ〜♪」
「そ、そんなことでいいのか?私が毎晩ベッドの上でアレックに泣かされたり、悔しくて朝這いをかけるも逆にハメ倒される話をしなくてもいいのか!?」
「もちろんよぉ〜♪ねぇ〜?だ・か・ら♪みぃ〜んなに聞かせてあげてねぇ〜♪」
「ぇっ?みんなって・・・?」
気がついて周りを見渡してみると、普段の集会をだんまりで通しているシェリルの話に興味津々なのか、周囲から色鮮やかで様々な眼光が自分に集中しているのをシェリルは見て、感じた。
(えっ?何これ?言わないとだめな流れになってる…!?)
「はぁ〜い♪みんなぁ〜♪今からシェリルちゃんがアレック君との、ふたりの愛の物語を語ってくれるってぇ〜♪はい、拍手ぅ〜♪」
―ワーワー、パチパチペチペチ、ヒューヒューサケヲダセーオトコハドコダー
(………………えぇ〜い!もう知らん!どうにでもなれ!!)
シェリルは一度大きく息を吸い、吐く。覚悟は決めた、後は勢い。
「私とアレックの出会いは―
「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そのエルフは己の不覚を呪った。
話はさらに、エルフが不覚を取る直前まで遡る。
森は静寂である。故にエルフも静寂を好む。
森のなかに身を置く動植物もその存在を悟られぬよう、ひっそりとその生命を全うする。それが、森で生きる者の務めであるように。だからこそエルフは、その静寂を必要以上に破るものが許せなかった。
シェリルはエルフの森に存在する集落の長の娘だった。どこまでも厳格な両親のもと、シェリルは他のエルフ以上に、森のなかで生きる者として相応しい作法や誇りを教え込まれた。シェリル自身も長の娘として恥ずかしくないよう努めてきた。やがて、森に生える草木から作れる薬草の知識、弓矢の扱い、魔法の心得など、森で生きるエルフの在るべき姿として、他のエルフにも一目置かれる存在となった。両親はそんな娘を誇りに思い、シェリルもまた両親の期待に応えられたことを嬉しく思った。
ある日のこと、森の静寂を荒らすものが現れた。森の奥深くに存在するエルフの森に入り込むものはそうはおらず、大抵は迷い込んだ獰猛な魔獣か、森の開拓に来る不届きな人間くらいだ。どちらも取るにたる存在ではなく、自分達エルフ
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