「きりーつ、れい! ちゃくせーき」
「よーし、じゃあ、今日は前回の束縛魔術の続きから授業始めるぞー。 教科書を開け」
委員長が声の号令で授業が始め、皆は一斉に教科書を開く。
先生はとても厳しいけれど、優しくて分かりやすく丁寧に教えてくれる。だから、皆は先生のことが大好きで、この授業を心待ちにしている。
チョークがコンコンと黒板の上を走る音がして、すらすらと文字が書かれていく。けど一つだけ問題があって……
「先生! 前の人で見えません!」
「む? おぉ、そうか。 っと……よっこらせ」
私の後ろの方の男の子が手を挙げて言った。
先生は「これは失礼」などと言いながら軽く教室の床を杖の先で叩くと、床が不自然にグニャリと歪み大きな瘤となった。ぴょん、とその上に乗ると教卓の影からひょっこりと小さな子が飛び出してきた。クリクリとした瞳と、ピンクの唇から覗く小さな八重歯。私達と同じかそれより少し小さいくらいの身長と見た目が相まって、一見すると子供に見えてしまう。けれど、頭には大きく反った二つの角があって、おまけに、手足はモフモフとした柔らかそうな毛で覆われている。
そう、私達の先生はバフォメットだ。
私達はバフォメットの先生に魔術を教えてもらっているのだ。
「これで見えるか?」
「大丈夫です。 おばあちゃん先生!」
チョークを魔術で飛ばして黒板に文字を書きながら訊ねると、さっきの男の子は笑顔で頷いた。おばあちゃん先生っというのは生徒達の間で流行っているバフォメット先生の愛称であって、もちろん、先生の前で“その名前”で呼ぶと……
「誰がおばあちゃん先生じゃ!」
「痛っ!」
ピカッと杖の先が光ったかと思うと教室の中を何かが走り、男の子が避ける間もなく一直線におでこに命中した。多分、今のは雷の魔法だと思う。男の子は額から少しだけ煙を出しながらウンウンと唸っていた。
「ふん、全く…… 私はまだ“おばあちゃん”などと言われる年では無いわ。 授業を続けるぞい」
ぶつぶつと文句を言いながら、おばあちゃん……バフォメット先生は黒板に向かって再び文字を書き始めた。板書を写そうとノートを広げると、脇腹の辺りにヒンヤリとした感触があった。なんだろう、と思って隣を見ると、スライムちゃんが何か言いたそうにしていた。
「アリスちゃん、あのさ……ちょっといい?」
「うん、どうしたの?」
先生が黒板の方を向いて板所をしている事を確認してから、先生に内緒話が聞えない様に耳をスライムちゃんの方に寄せる。
「あのさ、ちょっとノート見せて貰っても良い?」
「あ、良いよ。 スライムちゃん、前回は風邪を引いて授業をお休みしちゃったんだよね?」
「うん。 そうなの」
ノートを書いていた手を止めて、スライムちゃんに手渡すと嬉しそうに笑った。前回板書に使ったページ数だけ確認し、授業が終わってから全部写すらしい。自分のノートと見比べながら、ページ数を数えている。
「……っという事だ。 良いか? ここで重要なのは呼吸とリズムだ。 まずは落ち着いて呪文を唱えるのが最優先だからな。 少し隣の席の人と練習してみろ」
「ぷっ」
先生の解説を聞いていたら、不意にスライムちゃんが笑い出した。唐突に笑い出したので何かと思って見てみたら、スライムちゃんは私の描いた落書きのページを開いていた。
そうだ、前回はスライムちゃんが休みで授業がちょっと退屈だったからバフォメットおばあちゃんの落書きしたんだっけ?
「すっごい似てる……」
「ふふふ……」
授業中に先生に見つからないようにしながら描いた力作だ。縁側で座りながら緑茶を啜る姿は我ながら傑作だと思う。
気がつくとスライムちゃんは鉛筆で何かを付け足していた。なんだろう、と思ってノートを覗き込むと絵の中のバフォメット先生が何かを言っていた。
「アリス、飯はまだかいな?」
「ぶっ……!!!」
わざわざ絵の先生の顔でスライムちゃんは声真似をしながら読み上げた。
これはずるい。私も思いっきり噴出してしまった。笑いを必死に堪えながらスライムちゃんの方を見ると、してやったり、とでも言いたげな表情で笑っていた。
「よし、練習は終わり。 慣れてくれば不定形の相手や複数の相手を纏めて束縛することもできるので非常に便利だ」
ノートを取り返しいそいそと絵と文字を付け足す。完成したらすぐにスライムちゃんに見せてあげる。
「おばあちゃん、ご飯は昨日食べたでしょ?」
「ぶふっ!!!」
スライムちゃんは堪えきれずに完全に噴出した。おなかを抱えて声を無くして笑っている。
笑いをなんとか噛み殺しながら、スライムちゃんは震える手でノートに手を伸ばそうとする。
けれど……
「こんな感じでな」
私達二人の身体を
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