猫といえば気まぐれの代名詞だろう。分かりにくければ、飼い猫を見てみれば分かりやすい。寝たいときに寝て、遊びたい時に遊び、食べたい時に食べる。口があれば「私は別にお前達に飼って欲しいなんて言った事ないにゃ」なんて言いそうなほどに自由だ。
奴らは自分にとって興味がある事しかやらないのだ。
ならば、猫が長生きして魔力を溜め込んだ結果、妖怪になったというネコマタもこの勝手気ままな性格は受け継がれていてもおかしくない。そして、事実その通りだ。大概のネコマタは興味のある事以外は最低限しかやらないという、自由気ままな性格をしている。
大概、と言ったのは何事にも例外があるからで………
「はい、これでホームルーム終わるニャ! 日直は黒板消して、あと掃き掃除お願いニャ!」
目の前に居るネコマタは典型的な例外である。大体のクラスは全体をまとめるのが上手な人物が委員長として推薦されて委員長の任を任される。種族的な問題は勿論あるのだろうが、大体はアヌビスやバフォメットなどの魔物が推薦されて委員長になりやすい。しかし、ウチのクラスでは現在教壇に立っているネコマタがクラス全体を取りまとめている。
「んー? ゴローちん、僕の顔に何か付いてるかニャー? 僕の顔についてるのはヒゲにゃので、心配にゃーですよー?」
「何も言ってないだろ? あと、ミケ。 ゴローちんとか変なアダナを付けるな」
「ごろにゃんは冷たいニャー… ほとんど生まれた姿でクンズホグレツした仲ニャのに」
「プールで遊んだだけだろうが、阿呆。 変な誤解を招く良い方をするんじゃない」
机に突っ伏して変わったネコマタを眺めていたら、ミケはこちらに気がついたらしくやってきた。あんまりにもうるさいので、軽く空手チョップしてやると「にゃーん」などと変な鳴き声を上げた。
「じゃ、俺は帰るけど、お前は?」
「僕は、先生に日誌を届けなきゃいけないにゃ」
「分かった。じゃあ待ってるよ」
告げると少し不思議そうな顔をした。多分、自分が先に帰ると思ったのだろう。
「すぐ帰れるんだろ? 待ってるよ」
「ニャハ、ゴロりんは僕と一緒じゃないと寂しいのかにゃ?」
「うるせぇ、早く行け」
放っておくと機嫌が悪くなるのはどちらだ。やや邪険に扱いつつ、もう一発空手チョップをお見舞いしようと手を振ると、猫科の動物らしくしなやかに一歩下がり射程圏外に逃げられた。安全地帯でケラケラと笑うミケを見ていると、こっちも何だかしょうもない気になってくるので面倒になって席に座りなおす。
「じゃ、すぐに戻ってくるからちょっと待っててニャ」
スルリと教室を出て、小走り気味に職員室に向かっていった。
性格は飄々としていて掴みどころがないが、根っこの部分は真面目である。もちろん、ネコマタらしく興味の対象がコロコロと変わるが、やりっぱなしには決してしないし、一度やると決めればどんなに辛くて他に楽しい事があっても逃げる事はしない。それは、ほぼクラス満場一致で委員長に推薦される事実が裏付けているし、長いこと一緒に居る自分が保証する。
どうしてこうも真面目なのか。興味が沸いたら興味が失せるまで目標に向けて一直線という気質が変質したものだろうか。仮にそうだとしても、その原因は正直よく分からない。少なくとも物心付いた頃には極々平凡なネコマタだった気がする。ともすると、 やはり成長か生活環境による変化だろうか。
男子三日会わざれば刮目して見よ、というが、30分の化粧で化ける女子というのはそれ以上である。きっかけさえあれば、女子というのはあっさりと変わってしまうものなのだ。
「にゃぁ!」
「うぉ」
ぽむん、とつむじに肉球が押し付けられる。首を捻って後ろを向くとしてやったりという満面の笑みでミケが立っていた。まだ、日誌を持っている辺り、悪戯をしたくて一度教室を出てから背後からこっそり戻ってきたのだろう。前言撤回。真面目は真面目でも目先の事に釣られやすいという根っこの部分は変わっていないようだ。
「良いから早く行ってこい」
「ゴロロンが冷たいにゃん」
「待っててやってるんだから、早く一緒に帰ろうぜ」
軽く鞄を掲げ、こっちは鞄に教科書を詰め込むだけでだから早くしてくれ、とアピールする。すると、ミケはピクンと耳を立ててクネクネと体を揺らし始めた。
「そ、そ、それは。そのままゴローンの家に一緒に帰って良いと言うことかにゃ?そんな、まだ学生の身分だにゃ。内縁の妻と言うのは少しばかり早い気もするんにゃけど、でもでも、もしも、どうしてもというのなりゃ……」
「分かった。俺、先帰るわ」
「にゃぁぁぁあああ!!!!それは駄目にゃぁぁ!!!!そんな事したらゴロゴロの背中で一日3回爪とぎしてやるにゃぁああああ!!!」
立ち上がって教室を後に
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