朝起きる。窓辺で眠っていたために窓から差し込む朝日が毛布越しにちょっぴり眩しい。目の無い触手が眩しがるというのも変な話だ、と言われそうだけれど触手だって眩しいものは眩しいのだ。触手は手としての機能の他に様々な感覚機能が付随している。
およそ人間が持つ感覚は触手でカバーしている。
転がり落ちないように注意しながら触手を伸ばして窓辺から降りる。リディアが寝ているベッドを覗き込むと相変わらず平和そうな寝顔で寝ていた。そんな寝顔を見ていると「無防備な奴!」と叱ってやりたくなる。リディアだってそろそろ年頃の女の子なのだ。町の人たちは良い人ばかりだから良いようなものの、こんなに無防備ではすぐに騙されてしまう。少しは警戒くらいして欲しいと思う。
起こさないように注意しながら布団をずらし、それから、薄手のパジャマを少しだけまくりあげる。露わになった華奢な緑の腕に触手を巻きつける。
人から勝手に魔力を貰うのは良くない事だというのは重々承知している。けれど、リディアがこんなに無防備にしているのも少しは悪いと思う。頭の花のようにちょっとだけ甘い香りのする腕に体を巻きつけていると少しだけ幸せな気分になる。今だけは彼女を独り占めできているというささやかな征服感と自尊心。そんでもって、少しだけ悪い事をするのが堪らなくスリリングだ。
リディアの魔力の流れをトレースし、自分の流れを同調させる。それから、リディアの魔力の流れの一部分を自分の流れの方に誘導する。魔力の質は生まれた時の影響とその後の経験の影響を強く受ける。リディアの魔力はとても穏やかで優しい感じがする魔力だ。温かい町の人達に囲まれて、いっぱい愛されて育ったのだろうとよく分かる。正反対の魔力を取り込むと余程熟達した魔術師じゃないと自分の物にするどころか、身を滅ぼす原因にさえなる。けれど、リディアの魔力と自分の魔力は相性が良いのかよく馴染む。きっとそれはリディアが可愛がってくれたお陰で、リディアと魔力の性質が似ているからだ。少しだけそれが嬉しい。
あまり魔力を貰い過ぎてもリディアに気が付かれてしまうので、やや空腹を感じながらも触手を放す。リディアの魔力は人並みか少し足りない程度なのだけれど、出力が上手くいっていないために魔術が使えない。魔術の流れをイメージさせてあげるか、外部で魔術の流れを作ってやれば魔術が使えるようになるのではないかと思ったりする。
服を元に戻し布団を肩まで掛けてやる。それから背伸びをして飛び切り上等で甘い香りのするリディアの花に軽くキスをした。勝手にもらってごめんね、でもとっても美味しかったよ、と。
静かにリディアのもとから離れて、もそもそと台所に移動する。
御飯を用意してあげるためだ。
寝坊したリディアの事をちょっぴり驚かせるのだ。慌てて飛び起きて着替えて御飯の用意をしようと思ったら、もう机の上にご飯が用意されている。きっと、驚いてくれる。ぽけーっとした顔で見つめた後、褒めてくれるかもしれない。
楽しみ楽しみ。
イグニス印の火打石で竈に火を入れて、ドワーフに作ってもらったフライパンに油をひいて暖める。難しい料理は分からないから、パンと卵焼きで良いや。ベーコンも少し焼いてあげよう。リディアは肉は苦手というけれど、少しは食べないと栄養のバランスが偏ってしまうと思う。十分日光を浴びれば大丈夫というけれど、町で働いていると屋内の作業も多いので念のためというやつだ。
包丁を絡め取ってベーコンを薄めに切る。それを熱くなったフライパンの上に載せる。端っこがカリカリの香ばしいベーコンになるのを待つ間に、パンを切って準備だ。リディアの花の香りも甘くて良い匂いだけど、焼き立てのベーコンも美味しそうな匂いで大好きだ。ベーコンをお皿に移して、油の残ったフライパンの上にハーピーが分けてくれた卵を落す。もちろん、無精卵。
ジューっと油の跳ねる良い音がする。
「あ、クーネ・・・」
ぐるりと触手を動かして背後を見やると眠そうに眼を擦りながらパジャマ姿のリディアが立っていた。おはよう、と軽くお辞儀をしてキューと鳴くと、リディアも笑って笑顔を返してくれた。
「今日は休日だから、朝食なんか用意してくれなくても良かったのに」
あー・・・
そこでハタと思い出す。今日は休みだ。のんびりとしていても良いんだっけ。いつも早起きなリディアが寝坊なんかするわけない。折角、驚かせてあげようと思ったのに。ちぇっ、と舌はないけど内心で舌打ちする。
けれど、リディアは触手の上にポンと手を置いて嬉しそうな顔を作った。
「ふふ、でも、美味しそうな朝ご飯だね」
私も手伝う事ある? と訊いてくれたけど、嬉しいから最後まで一人でやらせてもらう事にする。リディアの腕を掴んで方向を変えて、ぐいぐいと背
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