相克の教会

 日が昇る。
 カーテンを開いて窓を開けると、眩しい陽光が差し込み部屋の中に朝の風が舞い込んでくる。血圧が低い私は思わず目を細め布団を抱きしめた。そんな様子を見て、スプンはフワフワと柔らかい笑い声をあげた。
「今日も良い天気ね。 ほら、起きてよアンリ。 こんなに良い天気だと、なんだか良い事ありそうだと思わない?」
 その無邪気な笑みに私は布団の中で瞼を擦りながら苦笑してしまう。良い天気というだけで良い事があるのなら、世の中はまさに良い事だらけだろう。
「良いじゃない、それでも。 気分良く過ごせるのならそれだけでも良い事よ?」
「はいはい」
 早速お日様に感謝の祈りをささげている。今日も暖かな恵みをありがとうございます、今日も一日子供達にご加護をよろしくお願い致します。その文句はスプンの毎朝の日課だ。祈りを捧げ終えると私の布団を引きはがしにかかるので、それまでに私は起きなくてはならない。まだ体温の残る布団に別れを告げ、パジャマを脱ぎシスター服に袖を通す。
「ふふ、感心感心。 今日はキチンと起きたわね?」
「いつも寝坊しているみたいな言い方じゃない・・・ 私はそんなに寝坊していないはずだけど?」
「それもそうね」
 私が苦笑を浮かべると、彼女は満面の笑みを返した。
「でも、アンリ。 気を付けてね? 怠惰は大罪の一つだもの。 人はいつだって迷いやすくて、ふとした拍子に道を踏み外してしまうのよ・・・」
「大丈夫、分かってますよ。 “だから人はいつだって信仰を忘れてはならない。信仰こそ我々人間が道を誤らないための灯なのだから”でしょ?」
「もう・・・ 貴女のそういう所、良くないと思うわ?」
「だって、暗唱できるくらいに聞いたもの」
 むっと唇を尖らせて不満そうな表情を作る。その表情は非常に可愛らしく真面目な彼女の姿勢も相まって天使の様だ。あるいは本当に天使の化身かもしれない。私は天使を見たことがないけれど、もし天使がいたらきっとこんな子だろう。
 僅かに私の方が背が高いので彼女は少しだけ私を見上げる視線になる。言いたいことの詰まったその視線を躱して私は台所へと逃げる。隣を通り過ぎる時に彼女のプラチナブロンドの髪からは僅かにお日様の甘い香りがした。
「もう、逃げないの!」
 後ろでスプンが可愛らしい声を上げたので少しだけ苦笑してしまう。これは後でお小言を言われるかもしれないなと。

・・・

 朝食の用意と言っても非常に簡素な物でパンを切り、ミルクと野菜それからスープと子供達のために僅かな肉を用意すれば終わる。私達は清貧を旨としているので肉を口にする事はできないが、成長期である子供達には野菜とスープだけでは足りないだろうというための配慮だ。
 スプンとしては僅かな贅沢であっても子供の頃に知ってしまえば「贅沢に慣れてしまって、道を踏み外す原因」となると考えているらしい。私は「子供達の健やかな成長には十分な栄養が必要であり、神も子供達の健やかな成長の方が喜ぶだろう」というのが持論なので、今なお平行線である。
 結局、食事に肉を供するか否かという話では一悶着あり、毎朝朝食にのみ肉を供するという形で落ち着いた。私としは子供達には足りないだろうという事で増やしてやりたいのだが、肉の管理はスプンが行っているので全く手を出すことができずにいる。
 子供達はそんな食事でも嬉しそうに食べる。彼らにとってみれば食事は数少ない娯楽であるし、また身寄りのない彼らの絆を深める癒しの場でもあるのだ。
 子供達の年齢は一様ではなく、理由も様々だ。けれど、相手がどんな人間であれ助けを求めるのなら助け、互いの過去には干渉せずに建設的に物事を積み上げる。それがここの住人が持つ唯一のルールだ。

「主よ、感謝のうちに食事を終ります。あなたの慈しみを忘れず、全ての人の幸せを祈りながら」

 スプンの祈りに合わせて全ての子供達は感謝の祈りを捧げる。
 祈りを終えると、子供達は各々の食器を持って台所へと運ぶ。後は年長の子供達が食器を洗い、年少の子供達は後片付けをする。最初は私達が行っていたのだが一人が手伝い始めると、それに習いまた一人、また一人と手伝う子供が増えてきて自然と役割分担ができた。そして、いつの間にか年長が年少に教えるという伝統ができ上がったのだ。
 スプンは子供達が自主的に手伝ってくれた、と喜んでいたが子供達としては少しでもスプンと一緒に居たかったのだろう。純粋に彼女の人徳であり、僅かばかりの子供達の下心だ。

「布団を干してきますね」
「はい、お願いします」

 人手が足りてそうなので声を掛ける。終わったら手伝いに行きますから、という言葉に頷き部屋を後にした。
 玄関を出ると太陽が眩しくて思わず目を細める。
 青空は高く、白い雲は柔らかい。良い天気だから良い事がありそ
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